第3話 フツーの石が光ったら文句ないよね

「あんた、今日も購買のパンでしょ。はーちゃんがおごるから、一緒にお昼しよ」


 //腰に手を当て、えらそうに胸を張る


「はーちゃんは滅多におごらないんだから、少しはありがたがってよ」


「どこに行くかって? また中庭とか言わないでよね。部室。はーちゃんのとっておきコレクションを置かせてもらってんの」


「さすがに次の時間は教室に戻るよ。遅刻無欠席のあんたが、体調不良でもないのにサボってるのは目立つじゃん?」


「はーちゃんは、いつものことだって笑って受け流されちゃうよ。なんなら、教室にいない方が喜んでもらえそうだけどね。なんであんなうるさいのがクラスをしきっているんだって、この前もクラスの女子から陰口叩かれてたし。教室に入ろうとしたときに聞こえちゃったから、気まずかったなぁ」//力なく笑う


「あんたまで暗い顔しないで。はーちゃんならへーきだって。大したことないし」


「教室戻ろ。あんたと約束したから、頑張って授業受けるよ」


「いや~。まさか、あんたが一緒にサボってくれるとは思わなかったなー」//明るく笑い飛ばす


「学校の外で石集めされると、近隣住民からクレームが入るから? はーちゃんのお目付け役ってこと?」


「それでもいいよ。そんな理由でも、はーちゃんはすごく嬉しいし」


「じゃ、はーちゃんは先に戻っとくから。あんたはゆっくりでいーよ」//ふんふふーんとハミングしながら去っていく




 //SE チャイムの音の後で、靴の音が近づいてくる


「つっかれた~! 三時間連続で起きたの、いつ以来かなぁ? もう肩がバッキバキなんだけど!」


「あんたには当たり前なこともしれないけど、はーちゃんにしてはすごい記録なんだよ」


「はい! これ、約束したパンね。コロッケパンと、たまごサンド、フルーツサンドもおまけしちゃう」


「はーちゃんはご飯食べたよ? 休み時間に早弁しちゃった」


「昼休みが待ちきれなかったんだよ。あんたに、はーちゃんの好きなもの、大好きになってほしいから」//はにかむ


「いつまでも教室にいたら、時間がもったいないよ。下駄箱で靴を履き替えたら、小走りね。はーちゃんについてきて」


 //SE 砂利を踏みしめる音


「ん~~! これは予想外だわ~!」//足が止まる


「可愛すぎてつらいんだけど!」


「この石、亀の甲羅に見えん? 大変かわよい!」


「しかも、あっちにも亀さんっぽい小石がある! こんな近くにあるの運命じゃね? 亀の親子かよ。めっちゃ仲よしじゃん。写真撮っとこ」


 //SE シャッターの音


「いやいや、どう見てもこの模様は亀さんでしょ。どこが犬なの。どこが」//水飲み場へ行き、石を濡らす


「水に濡らしたら、ほら」


「さっきの石と、印象が全然変わったっしょ。亀さんが気持ちよさそうに目を細めてる!」


「しっとりとして、つやがあるの、綺麗だよね。いつまでも見ていられると思わん?」


「犬は一旦忘れなさいってば!」//口元を手で隠して笑う


「つやがあるのは水のおかげ? あんたの目、思ったより厳しすぎん? 犬じゃないって、はーちゃんが言ったせいなの?」//呆然とする


「じゃあさ、フツーの石が光ったら文句ないよね?」//目を輝かせる


「寄り道して遅くなったね。待たせちゃった分、部室でいいもの見せてあげる!」


 //SE 鍵を開ける音


「お腹空いてるよね。座ってご飯食べといて」


「何って、耐水ペーパー。金属用の紙やすりだよ。あんたに体験してもらう前に、はーちゃんが少しだけ手伝っとこうかなって」


「棚から出したのは宝石じゃないよ? あんたの言う、路傍の石。何も手を加えていない石だよ」


「これをひたすら磨いて、どこまで綺麗になるのか検証するの」


「この色と形を覚えておいてね。まだ表面に傷があって、くすんだ色をしている状態を」


「まずは切ったペットボトルに水を入れて」


「石を濡らしながらダイヤモンドヤスリで平らにするんだよ」


 //SE 石を研ぐ音(ガリガリガリ)


「ある程度なだらかになったら」


「数字の小さい耐水ペーパーで磨いていくよ。今回は八十番から始めてもいいかな」


 //SE 耐水ペーパーで研ぐ音(ガリガリガリ)


「円を描くみたいに、くるくるぐるぐる。ぐるぐるくるくる。どの面も均等になるように削るんだよ。最初の段階で傷を放っておくと、また最初からやり直しになっちゃうから根気がいる作業なんだ」


「やってみたい?」//満面の笑みを浮かべる


「もち! あんたの机に耐水ペーパーを貼るから、ちょっと待ってて!」


「どぞっ! 疲れたらいつでも言ってね。無理は禁物だから!」


 //SE 耐水ペーパーで研ぐ音(ガリガリガリ)


「おけおけ。いー感じ!」


 //SE 耐水ペーパーで研ぐ音(ガリガリガリ)


「あー。もう少し軽めに磨いてもいいかも」//椅子から立ち上がる


「ちょっと後ろからごめん」//後ろから抱きしめる形で囁く


「これぐらいの力加減を意識してほしいな」


 //SE 耐水ペーパーで研ぐ音(ガリガリガリ)


「どしたん? そっぽ向いて」


「なんか悪いことしてるみたいだよね」//にやりと笑う


「みんなはフツーにご飯食べてるのに、あんたははーちゃんにハグされているんだもん。二人きりの部室で興奮してる?」


 //耳元に息を吹きかける


「黙っているのは図星ってことかなー? さっきから汗止まんないね。背中のシャツ、汗で張りついて気持ち悪くない? はーちゃんのタオル貸してあげよっか?」


「ちゃんと洗ったやつだし! 実験部の部室はクーラーがないから、多めに置いてるの!」//離れて腕組みする


「正真正銘、はーちゃんはここの部員だよ。幽霊部員なんかじゃないんだから」


「まー、顧問にサボりがバレたら無期限活動停止を食らう、危ない状況なんだけど。石の採集は昼休みと放課後って約束させられちゃったんだよね」


「次はこのやすりでいってみよー! 二百四十にレベルアップ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る