第2話 石にも表情あるって知ってた?

「路傍の石ってさ、その辺に転がってる石っていう意味じゃん? それか、道端の石みたいな取るに足らないものってことを指すよね。でもさ、その辺の石ってゆーけど、石にも表情があるって知ってた? あんたには分かんないよねぇ~」//得意げ


「石にきょーみないあんたでも理解できるように、外で観察してみよっか。中庭行こ。中庭」


 //尻込みされ、嫌そうな顔を作る


「いいじゃん、どうせ一時間目は自習なんだし。誰かに見つかったら、スケッチのために花崗岩探してました~って言えばよくない? 生物のセンセーは納得してくれるって。あんた、センセーからの信頼あるし。中庭で石を眺めてても、内申点に響かないって」


「あんたは体調不良で保健室に行っても、サボりって思われないでしょ。そーゆーの羨ましいな。はーちゃんじゃそうもいかないんだよね。日頃の行いの差なんかぁ」//あっけらかんと話す


 //SE チャイムの音


「ヤバっ! 予鈴鳴っちゃった! 廊下にいたら他のクラスのセンセーと鉢合わせちゃうかも」


 //手を掴む


「行くよ! はーちゃんおすすめのスポットに!」


「着いた~!」//息を弾ませる


「ここだよ、ここ~!」//テーマパークに来て写真を撮りまくる、ギャル並みのハイテンション


「ほらほら、見て見て! どうよ、日本のグランドキャニオン!」//ドヤ顔


「迫力満点で、言葉が出ないんじゃない? 風と雨が作り上げた大地の芸術作品だもんね。ちみっちゃいけど、地層みたく折り重なった模様が複雑で、綺麗だと思わない? このくぼみのとこ、フォルムがめちゃくちゃ可愛くていつも癒されてる。あんたも感動したっしょ?」


「オレンジがかった色合いは、何時間でも見られちゃうよね~。なんかさ、夕日の色を思い出さん? すごくロマンチックだよね」


「アメリカに行かなくても、大昔の大地の息吹が感じられるの、よくない? 写真とか動画じゃ、岩のゴツゴツした質感は再現できないじゃん? やっぱ実物しか勝たんよね!」


「いつも思うんだけど、どうしてこのグランドキャニオンは中庭にあるのかな。校長室に飾ろうよ。お客さんが来たら、絶対自慢できるのに」


 //感嘆の息をもらす


「台座に飾ったグランドキャニオン見たいなぁ。はーちゃんが校長室に行くと毎回お留守だから、校長センセーマジで神出鬼没すぎる。劉備よりもはーちゃんの方が偉いんじゃない? 三顧の礼超えてんだけど」


「あーあ。クーラーの効いた部屋に入り浸れるの、一体いつになるんだろ」


「そうだよ。校長室のクーラー目当て。だって、職員室はすぐ追い出されるじゃん。夏場はクーラーがないと生きられないよ。もう気づいてると思うけど、湿度高いのもはーちゃんの敵。体だるおもぉ~な状態で、頑張って学校に来てるんだよ。今のところ遅刻なしをキープできてるの、すごくない? 褒めて、褒めてぇ~! えへへ」


 //デレた頬を引き締める


「危ない危ない。話が逸れちゃうとこだったよ」


「この石の魅力はね、尖っていた角が取れてまる~くなるとこなんだ。長い時間をかけて姿が変わっていってるの。犬とか猫が成長するみたいに、石も成長してるんだよ。おっきくはならないけど、色と形に味が出るの。見届ける価値はあると思うよ」


「石の成長をずっと眺めていたら、おじいちゃんになる? そこまで待つのは面倒? そもそも、もう教室に戻りたい? さすがにせっかちすぎん?」//呆れ


「まだプレゼン終わってないってば。はーちゃんの話、最後まで聞いて。分かった? 文句言わないの」


 //嫌そうな顔をするあなたに構わず、明るい笑顔を見せる


「初心者さんに見立てを教えるのは早かったのかもね。あ、見立てっていうのは、さっきのグランドキャニオンみたいに自然の様子を表している石のことね。滝とか鳥の形に似た石もあるんだよ」


「見立てにきょーみが湧いたら、いつでも言ってね! うちの学校で見つけたはーちゃんお気に入りコレクションを、特別に見せてあげるからさ」


「とりま、パッと見て印象に残りそうな石を見せるね。じゃーん! これは梨の皮の模様みたいに、ぷつぷつがたくさんあるでしょ。灰色がかってる石に、金のくぼみができてるの分かる? キラキラしてて、手のひらの銀河みたいだよね。はーちゃんは星の粒って呼んでる」


「こーゆーのを、いとをかしって呼ぶんじゃない?」


「知らんけど」


「だって、清少納言は平安時代の人じゃん。はーちゃんと同じ感覚かどうか分かんないよ」


「もしかしてあんた、はーちゃんのことテキトーな子だって思ってない? さっき聞き返されたとき、語尾が怖かったよぉ」


「ジョーダンだって。からかいたくなっただけ」


「こっちの炭みたいに真っ黒な石は、つやがあって美人さんだよね。あんたに盗られたクロと同じ。鑑賞用の石の中で、深い黒色は最上級の色合いなんだよ。真黒って言うんだけど、魚のマグロじゃないから。勘違いすんなよ?」//にひひと笑う


「まだ石を夢中で見てくれてない……か」


「そろそろ鑑賞編から実践編に移ろっか! はーちゃんの話を聞くばっかりだと、頭に入るものも入らなくなるもんね。実際に触れてみよーよ。騙されたと思ってさ」

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