路傍の石とは言わせない

羽間慧

第1話 みっちり教えこんであげる!

「何よ。メイク落としたからいーでしょ。あんたにすっぴんを見られるのはマジでやなんだけど」


「これはコンタクト。裸眼じゃ何も見えないからつけてんの。ごーいんに外させられてたまるかっての。ケース持ってきてないし」


「やだ! この色、気に入ってんだから」


 //言い間違いを指摘されて怒る


「カラコンじゃねーーわっ! はーちゃんが言い間違える訳ないっしょ」


「ジロジロ見んな。スカート丈はフツーだって言ってるでしょうが。はーちゃんに触ろうとしたら刺すから」


 //SE 舌打ちする音


「聞こえなかった? 触んなって言ったの。女子の風紀委員が休みだからって、あんたがしゃしゃり出る必要なくない? マジメかよ。ほんっと月曜から萎えるわぁ~。梅雨入りしてからムシムシするし、前髪全然決まんないし。変な虫はくっつくし!」//じと~と睨む


 //SE 手を叩く音


「そーだ! はーちゃんの元気が出るように、アイス買ってきて。自販機のやつ。そしたら、あんたの言うこと何でも聞いてあげる」


「……」//唇を尖らせる


「嘘つかないでよ。何のためにバイトしてんの?」


 //耳元に近づいて囁く


「二次元の女子がしてくれないこと、はーちゃんならいっぱい叶えてあげられるんだよ。アイス代で済むなら、ちょーお買い得じゃん」


「カツアゲじゃねーし! 人聞きの悪いこと言わないでよね。あんたのこと、いじめてるみたいに思われるじゃんか」//顔を赤くし、耳元から離れて大きめの声で言う


「遊んであげてるだけで、いたぶるつもりはないから。むしろ、はーちゃんの近くにいられるだけで、あんたの寿命はめっちゃ伸びてるんだよ。可愛いものに囲まれていたら、ストレス感じないじゃん? それとおんなじ理論って言ったら分かる?」


 //SE にんまりと笑う音


「ってことで、スカートが膝よりちょおっと上なの、問題ないよね? 誤差の範囲内だよね。よかった! 一時間目の移動教室、間に合わなくなるのはお互いやだもんね。理解が早くて助かるよ。アイスよろ~! イチゴでお願い!」


 //ぽかんと口を開ける


「は? 自習だって初耳なんだけど。なんであんたが知ってんの? ホームルームで担任はなんにも教えてくれなかったじゃん」


「あ~。子どもが熱出したんならしゃーないか」//微笑む


「あいつもいいとこあるじゃん。いつも生きてんのか死んでんのか分からん顔してるけど、奥さんの代わりに子どもを病院に連れて行くとか最高かよ。いいパパさんしてんね」


 //接近されて焦る


「ちょ、いきなり壁ドン? あんた、思ってたよりぐいぐい来るんだね。この距離、唇当たっちゃいそ~」//余裕そうに笑う


「や、マジで当たる! ストップ! それ以上はだめ!」//本気で焦り、目をつぶる


「あれ?」//予想していた感触がないことに驚く


「キスされて、ない?」


「びっくりさせないでよね。はーちゃんの初めてが、あんたなんて無理だから」


 //きつい言い方をしてしまったと、すぐに我に返る


「ちがっ! 生理的に無理って訳じゃなくてさ。人が怖いだけ」


「あんなこと言われて、さすがにへこんだよね。ごめん」//しゅんとする


「そんな言い方しないでくれる?」//キッと睨む


「あいつらは悪い奴らじゃないよ。授業で分かんないことあるから、ダチに聞いてるだけ。うるさくしようと思って喋ってるつもりないから、そこんところよろ!」


「アイス買ってくれないんなら、はーちゃんは先に理科室行っとくね~! あんたは遅く歩きなさいよ」//ついてくんなと無言で威圧する


 //SE 教室のドアが開かれ、早歩きで進む上履きの音


「はぁ。近すぎてちょービビった。あいつ、結局何がしたかったの? そんなにはーちゃんのこと嫌いなら、無理に絡もうとしなくていいのに」


「けっこー疲れたから、クロに癒されようっと」//気だるげな感じ


「クロー! 聞いてよ、あいつがさぁ~」//胸ポケットに触れる


「ない。ないないない!」


 //SE 服がこすれる音


「クロがどっかに行ったんだけど!」


 //SE 靴の音


「なんであんたが持ってんの?」


「とぼけないで。その黒い石よ」


「はーちゃんがキスされるって勘違いしたときか!」//思い出して赤面する


「反省してないから奪った? メイク落とさせておいて、まだ何か要求するつもり? 朝五時から起きてメイクするの、大変なんだからね?」


「はーちゃんは、あんたから何も奪ってないじゃない」//キレ気味


「集中力と勉強時間……それは悪かったって」//消え入りそうな声


「あんたの望み通り、一週間頑張るから。ちゃんと授業中静かにする。センセーに文句言わないし、ダチとだべらないようにする。だから、クロを窓から落とそうとするのやめてよ……」


「どうとでも言えばいいじゃん。石に話しかける痛い奴だって、はーちゃんが一番よく分かってる」//やや涙目で睨む


「一人でいるの落ち着くんだもん」


 //髪の毛を指でくるくるいじる


「カフェとかハンバーガーショップだと、お金払わなきゃだけどさ。川とか森なら、そーゆーのいらないし」


「宝石みたいに磨けば光る石じゃなくて 、人の手が加わってない石の方が好きなの」


路傍ろぼうの石なんて、聞き捨てならないなぁ」//クロをけなされ、むくれる


「はーちゃんが石の魅力についてみっちり教えこんであげる!」//にっと笑い、歯を見せる

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