3.佐々木先輩と古川先輩(2)

「どこかに良い出会いが無いかなーって思って、私ツイ×ターで女の子のアカウント検索したの」


 受験を控えた女子中学生がすることじゃありません。


「そしたら同じ中学でいたの、とっても可愛くてすっごくタイプの子が!」

「良かった…じゃないですか?」


 疑問形になってしまいましたが故意ではありません。


「お近づきになりたい、と思ってコ×ダで待ち合わせしたその子なんだけど…」


 そう言ってスマホを見せた佐々木先輩。画面に映っているのは色白でおっとりした印象を受ける女性でした。


「この人ですか。良いところのお嬢様って感じですけど」

「そうそう。話してみると優しくて、話も弾む素敵な女性だなって。私もそう思ったんだけど……」


 佐々木先輩はふぅとため息をつきました。


「みそカツパンとカツカリーパンとピザトーストを一人で平らげてるのは、今思えばおかしかったなって」

「……うーん」


 確かに女子中学生のティータイムにしては量が多すぎる気がしないでもないですが、出会い厨に勤しむ目の前の先輩に比べればおかしさは数段落ちます。あそこの店で出る食品はどれも妙に量が多いんですよね。


「美味しそうに食べてる古川さん可愛かったし、その時は気にならなかったんだ」

「はあ」

「その次の休みに一緒に行った東×動植物園も楽しかったし、変なところは何も無かった」

「はあ」

「異変に気付いたのはその週の水曜日。体育の授業で古川さんが着た後の体操着の匂いを嗅いだら男の人の臭いがしたんだ」

「はあ?」


 匂いをテイスティングすることを当然のようにしないでください。古川さんとやらに出会って一月も経ってないんですよね?


「男の人の匂いってどういうことですか?」

「男の人の臭いは男の人の臭い。分かるでしょ?」


 わからん……。


「あの臭いかあ」

「西森先輩分かるんですか?」

「ほら、雨が降ると雨の匂いするじゃん。あれに冷凍庫の匂い足して2で割らない感じの臭いだよ」


 余計わからん……。


「佐々木さんは男の人の臭いに敏感だから、その辺は信頼しても良いと思うな」

「根拠不明の特殊能力を信頼しろ、と言われても困るんですが……」

「二、三日前に女性同士の子供がどうとか、みたいなニュースやってたじゃん」

「あー、ありましたね」


 結構衝撃的なニュースだったのでそれは覚えています。新聞で読んでいて驚きました。


「実は十何年も前に女性同士のカップルの子供が産まれていて、問題なく成長してる、みたいな内容でしたね」

「その子がこの佐々木さんなの」

「ええ……?」


 なんとも突拍子のない話ですが、両親が共に女性という特殊な生まれであればそのような能力が発現してもおかしくはない、のでしょうか?


「ひ、ひとまずその古川さんから男性の臭いがした、というのは分かりました。でも他に根拠らしい根拠はないわけですよね」

「……まあそうなるのかな?」


 今のところその一点だけですが。


「男の人かどうか、直接見ればよくない?」

「……直接」


 何を? とは言いません。西森先輩が指す対象物が何なのか。そんなもの分かり切っているからです。


「ここでうだうだ話してもしょうがないし、見せてもらうのが一番早いよ」

「そ、それは……」


 口ごもる佐々木先輩。やはり自分でもそうするしかないと薄々感じていたのでしょう。


「佐々木さんに見る勇気がないなら、あたしが見に行ってくる」

「えっ」


 そう言って西森先輩は席を立ち、教室を出ていきました。


「ちょ、待ってくださいよ」


 慌ててわたしは先輩の後を追います。廊下に飛び出し左右を見渡しましたが、先輩の姿はなし。そう遠くには行っていないはずですが……。


「ぎゃあああああああ」


断末魔は教室から歩いて5秒のトイレの中から聞こえてきました。

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