第11話 ゴブリン、襲われる

 オーディション参加者一人目がミミックによって食われるというハプニングはあったが、早すぎて何があったかバレていないようだったので、吾輩は司会を進行することにした。


「では、次のオウボシャの方、自己紹介を頼む」


:では、じゃねえだろwwwwww

:今、人消えたよな?

:神隠しってやつか?

:まあ、でも消えたやつはイキってたし残当 

:自業自得ってやつか。ならしゃーないな

:いやいや普通におかしいだろ誤魔化されんな


 流石に違和感は拭えなかったようだが、こちら側の落ち度があったことをそのまま言うわけにもいかず、フェアではないとわかっていながらも、それでも吾輩は司会を続けた。


「時間が惜しいのでな。できるだけ巻きで頼む」


:むしろ一人目が消えたことで時間は余ってるのでは?

:コメント全無視wwwww

:まあいちいちコメント拾っててもしょうがないしな

:スルースキルまで覚えるだなんて……ゴブキン、やるじゃねえか

:何で上から目線なんだよお前


 吾輩が促すと、二人目の応募者が宝箱に座りながら喋り出した。


「ステゴロ系ダンチューバーのホンマバキだ。今日はあんたとやりあえるチャンスがあるって聞いてやってきた」


:お、まあまあよさそうな奴でてきたやん

:ホンマバキって知ってる?

:誰?

:まあ知名度はこの際関係ないでしょ。まだ見ぬ原石を発掘するのもオーディションの楽しみ方だしさ

:少なくともさっきの奴よりかは期待できそうだな


 ホンマバキの評価はさっきのダンチューバーよりかは高評価のようだ。

 しかし、


「オーディションを通過しなければ吾輩とは戦えないが、何かアピールできることはあるか?」


 ホンマバキの履歴書にはなぜかアピールポイントが記載されていなかった。オーディションを通過したいのなら、むしろここだけは埋めておくべき空欄であるというのに、一体どういうことだろう。

 吾輩は逆にそこが気になって、ホンマバキに質問していた。


「オレはあんまり頭はよくないが、それでも好きな言葉がある。それは言うは易く行うは難しってやつだ。ゴブキンさん、意味伝わってるか?」

「ああ、なんとなくだがな」

「まあつまり、誰だって口だけならなんとだって言えるってことだよ。それは文章も同じ。アピールポイントなんていくらでも捏造できる。それはオレの隣にいた奴が証明してくれたばっかりだしな」


 爽やかな笑みを浮かべながら、ホンマバキは言った。


「アピールなんてものは全部拳で十分だ。オレが今ここであんたをぶっ倒せば、それが最高のアピールになる、違うか?」


:おお!

:おもろくなってきたあああああああ!

:かっけえ……

:こいつのチャンネル登録しに行くわ

:ちゃんと言えたじゃねえか……

:やっぱオーディションはこうでなくっちゃ


 ホンマバキはその実力の程は定かではないが、その強いキャラクターで配信を盛り上げていた。


 いいぞ、と思う。

 吾輩が待っていたのはまさにこういう人間だ。身長はそこまで高くはなく体格もスリムだが、しかし見かけで判断してはいけない。

 これだけの言葉が吐けるということは、それだけの修羅場をくぐってきたということ。

 


 吾輩はこいつは合格だと即決した。


「よし、わかった。ありがとう。座ってくれ」


 ホンマバキは指示に従って座る。

   

 吾輩は履歴書のプリントめくって、次の応募者に自己紹介をさせようとした——その瞬間。


「——っ」


 あろうことか、吾輩に向けて火炎魔法がいきなり射出された。

 狙いは吾輩の目。眼球内の水分の沸騰させて失明させるつもりだったのだろう。

 しかしソーサラーの魔術に比べれば月と鼈ほどの差がある。吾輩は首をほんの少しだけ動かして魔法を避けた。


 魔法は背後の壁に着弾する。

 会場が騒然となった。


:え

:今の魔法だよな?

:しかもゴブキンの方に飛んでってた

:でも食らってないってことは避けたんか? 

:なんで避けられるんだよwwwwww

:いきなり魔法撃つってやべえやついんな


 コメントも突然の事態に困惑しているようだ。

 吾輩はすぐさま犯人を排除しようかと考えたが、堪えた。

 なぜなら魔法を撃ったのはホンマバキだったからだ。


「オマエ……なんのつもりだ」

「チッ……油断させればワンチャンあるんじゃないかって思ったんだが」


 ホンマバキはスタッフとして雇われたダンチューバーたちにはがいじめにされる。しかしそれでもホンマバキは先ほどとは打って変わって不敵な笑みを浮かべていた。


「先ほどの自己紹介は全て嘘か」

「当たり前だ。ステゴロであんたに挑むダンチューバーなんてバカだけだろ」

「そうか……」


:ふざけんな! ゴブキンが怪我したらどうすんだ!

:ゴブキンが怪我するわけねえだろ! 火球を吐息で反射すんだぞ!

:おいゴブキン! こいつやっちまえ!

:うわ、一瞬騙されかけたわ

:俺も

:人は見かけによらないんやなって

:ステゴロ系とか言っといて魔法の騙し討ちってやってることクズすぎwwww

:でもそれくらいしないとゴブキンには勝てないからな……


 コメントは今日イチの盛り上がりを見せている。

 吾輩はルール違反としてすぐさまホンマバキを排除しようと考えていたが、刀にやった手を離した。

 すると、隣から声が聞こえた。


「おい人間、お主にはゴブキンの盾となるように言っておいたはずじゃが?」

「ご、ごめんなさい、リッチ様! つい、僕も騙されていて……」

「もしゴブキンが魔法を食らっていたら、あのダンチューバーは即死していたぞ! そうなったらこの『ゴブリンキング・ダウン1』がつまらくなるじゃろ!」

「す、すみません……」


 吾輩を挟んでリッチとシュウとの間で意味不明な会話が交わされていた。

 それにリッチ『様』?

 聞き間違いか?


 気になることはたくさんあったが、しかしそれよりもまずこの状況を野放しにしておくことはできないので、吾輩はリッチに相談することにした。


「おい、アンタはこれからどうすればいいと思う? あのニンゲンに放っておくわけにもいかないだろう」

「そうじゃな。でもじゃからといって殺したりしては、それ以降の応募者がお主に恐れ慄いて大会を辞退しかねないからのう……そうじゃな、ちょうどいいことだし、あれにするか」


 そう言って、リッチは吾輩の耳元に近寄り小声で囁く。


「ごにょごにょごにょごにょ」

「なるほど……それは確かに悪くない案だが、ニンゲンは了解しているのか?」

「構わん。あいつはもはや我の奴隷じゃ」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、まあ放っとくことにした。


 吾輩は早速リッチの提案を実行することにする。


「オウボシャ、そしてシチョウシャよ、お騒がせして大変申し訳ない」


:相変わらず礼儀正しくて草

:大丈夫やで

:むしろお前が大丈夫か?

:ゴブキン、やっぱりこんな危ないイベントやめようよ〜

:ゴブキンがキレ散らかして参加者を殺戮パーティーしないか心配だったわ


「吾輩はあくまでこの『ゴブリンキング・ダウン1』をルールに則った神聖なる戦いの場と考えている。その旨は既に伝えてあったはずだ。よって、このままホンマバキを野放しにしておくことはできない」


:【悲報】ホンマバキ、死す

:あー、ゴブキン怒らせちゃった

:終わりですやん

:因果応報wwwwwwwwww

:ざまあwwwww


「しかしここで吾輩が奴を殺しても芸がないというもの。そこで吾輩はホンマバキにペナルティを与えることとした」


:ペナルティ?

:罰ってこと?

:何、拷問でもすんの?

:痛いのはあんまり見たくないかも……


 そして吾輩は言った。


「これより特別試合『ホンマバキ対「男女男男女ダンジョン」のシュウ』のマッチアップを急遽セッティングすることするッッ!」


:ええええええええ!

:シュウって元チャンネル主の⁉

:盛り上がってきたあああああああ

:やっぱゴブキンの配信はこうでなくっちゃなあ

:やっちまえええええええええええええ!


 コメントは盛り上がりを見せる。

 そして、


「ええええええええええええ⁉」


 シュウも別の意味で盛り上がりを見せていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る