第12話 ゴブリン、説明する

 オーディション会場としていたモンスターハウスには、大勢のダンチューバーたちによって形作られた円ができている。円の外周にはリッチによって張られた結界があり、そしてその真ん中には二人の人間が立っていた。


「まさかゴブキンの前に『男女男男女ダンジョン』のリーダーとやりあえるとはな……」

「な、なんで僕がここに立たなくちゃならないんだあああ!」


:今きた。解説キボンヌ

:ホンマバキとかいう無名がゴブキンを騙し討ちする→ゴブキン当然避ける→ペナルティとしてシュウと戦う

:なんでそうなるんだってばよ

:俺にもわからん

:どうせ解説してくれるっしょ。ゴブキン結構丁寧だし

 

 やる気満々のダンチューバー・ホンマバキと及び腰になっているシュウが対照的に映る。シュウはさっきから文句ばっかり言っているが、それは吾輩にとってはどうでもいい。それよりもまずこの試合に至る経緯を軽く視聴者に説明しなければならないと思った。


「急ではあるが特別試合を開催することとした。その理由をいくつか話そうと思う」


 吾輩は頭の中で言いたいことを整理しながら、論理的に話すことを心がけた。


「まず、ルール違反者に対してはペナルティを与えなければならないこと。これは同じような輩を増やさないためにも、必要不可欠な措置であると考える。そしてそのことに関しては、シチョウシャたちも理解してくれると思っている」


:せやな

:確かに

:あくまでルールあってのゴブリンキング・ダウンだもんな

:なんでもありだとそれはそれでつまんないってことか

:まあ、なんでもありでも多分ゴブキンには勝てないんですけどね……


「さて、ではどんなペナルティを与えるかだが、もちろん追放、見せしめなどいろんなことは考えた。いきなり眼球を狙われたのだ。それくらいの仕返しはしてもおかしくはないだろう」


:こっわ

:まあそうだけどさあ

:ゴブキン顔がゴブリンだから何言っても怖く聞こえんだよな……

:そんなこと言うなよ、ゴブキンが気にしてたらどうすんだよ!

:ゴブキンがそんな繊細なわけねえだろwwwwww

:むしろゴブキンはその顔の怖さすら利用して戦ってそう


 視聴者たちのなかでの吾輩のイメージがどんどん歪んでいるようにも思えたのだが、今は説明の途中なので突っ込まないことにした。


 さて、続きである。


「しかし普通のペナルティではシチョウシャたちを満足させることはできないと思った。この『ゴブリンキング・ダウン1』は神聖なる戦いであると同時にシチョウシャを最大限に楽しませるエンターテインメントでもあるのだ」


:え、え、エンターテインメントwwwwww

:エンタメって略さないあたりがゴブキンやなって

:ゴブリンにエンタメ見させられてるって他のダンチューバーは何やってんだよ……

:見た目じゃねんだよな、やっぱ

:人は中身よ!

:ゴブキンは人じゃなくてゴブリンなんですがそれは


「よって、吾輩は考えた。吾輩がこのまま戦ってしまっては、オーディションの意味がないし、吾輩よりも強いリッチが戦っても勝負にならないだろう。というわけで、消去法で吾輩は『男女男男女ダンジョン』リーダーのシュウに戦ってもらうことにした。シチョウシャよ、理解できたか?」


:いやいやちょっと待てよ、ロリッチがゴブキンより強い⁉

:う、嘘乙……

:まあでも確かに種族的にはゴブリンよりもリッチの方が強いが……

:え、待って。それじゃあもしかしてこのラスト・ダンジョンには、ゴブキンより強い奴がうじゃうじゃいるってこと?

:【悲報】人類、終わる

:誰か消去法で選ばれた元無双系配信者のシュウさんに触れてあげて……

:多分ゴブキンは悪気もなく消去法って言葉使ってるわ(笑)


 コメントが予想外の反応を示したが、まあいい。

 今は兎にも角にも視聴者たちを満足させる方が優先だ。

 

 というわけで、吾輩は宣言した。


「それでは早速だが『ステゴロ系ダンチューバー・ホンマバキ対元無双系ダンチューバー・シュウ』の試合を開催するッッ! ファイッ!」


 合図がなる直前に動き出したのは自称ステゴロ系ダンチューバーのホンマバキだった。

 筋肉質でない体型は無駄を削ぎ落としたというよりもそもそも使う必要がないからそうなったのだろう。それを証明するように、やはりホンマバキは騙し討ちの魔法攻撃によって先制した。


 石ころほどの小さな火球。

 だがそれはそれなりのスピードでシュウの眼球を狙う。


 さて、シュウ。元無双系ダンチューバーのお手並拝見といこうか。


 吾輩はこの『ゴブリンキング・ダウン1』を盛り上げなければいけない立場だったが、そんなことはお構いなしに戦闘を観察することにした。

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