第9話 ゴブリン、司会者になる

「ゴブゴブハローダンチューブ。どうも、ゴブキンです」


 吾輩は挨拶をかました。


 吾輩はダンジョンのモンスターハウスにいた。ただモンスターハウスといっても、モンスターは吾輩とリッチの二体しかいない。その代わりに、モンスターハウスにはたくさんの侵入者——ダンチューバーたちが綺麗に並べられた宝箱に座っていた。

 

 ダンチューバーたちのオラついた視線を浴びながら、大剣をテーブル代わりに宝箱に座る吾輩はカメラに向かって話し続けた。


「シチョウシャたちよ、長らくお待たせしたな。くだらない前置きは全て省いて、早速始めさせてもらうこととする」


 そして、吾輩は宣言した。


「——これより『ゴブリンキング・ダウン1』を開催するッッ!」


:うおおおおおおおおおおおおおおお!

:ついにきたあああああああああ!

:『1』があるってことは『2』もあるってこと⁉

:ゴブキンいつも冷静なのにたまに感情的になるの好き

:祭りじゃ祭りじゃあああああああああああ!

:ゴブリンがナチュラルに司会進行してて草


 吾輩はテーブル代わりの大剣に置かれた『タブレット』なるもので、配信映像とコメントを確認する。画面がスマホよりも大きくて見やすくなっていることで、より配信の盛り上がりのようなものを感じた。


 吾輩は続けた。


「『ゴブリンキング・ダウン』とは名だたるダンチューバーたちが集ったオーディションを行い、その中から選ばれた屈強な戦士が武器を使わない吾輩からダウンを奪えるかどうかを競う戦いだ。というわけで、まずはオーディションを審査するメンバーの紹介から始めたいと思う」


 吾輩がそう言うと、前方にいる『カメラマン』なるジョブの人間が大きなカメラを横に動かした。そのカメラの狙う先——吾輩の隣には銀髪赤目の少女がちょこんと宝箱の上に座っていた。


「初めまして、じゃの。我はリッチじゃ。ゴブキンのマネージャー的ポジションで色々やらさせてもらっておる。本来なら表に出てくる予定はなかったのじゃが、ゴブキンには知り合いが我くらいしかいないからの、仕方なく出てきてやったわい。ま、というわけでよろしくじゃ」


:がわいいいいいいいいいいい!

:ロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリ(以下略

:かわいいでちゅねーなんちゃいでちゅかー?

:【悲報】ワイ、目覚める

:そういえばこいつ、ちょっと話題になってた謎のロリじゃん

:あー、あの配信で聞こえた謎のロリボイスか

:ゴブキン……俺はお前は戦い一筋だと思ってたのに……女作ってんじゃねえか!


「ろ、ろ、ロリじゃないわ! この下等生物共がっ!」


:ひいいいいいいありがとございますううううううう!

:我々の業界ではご褒美です

:どこからどう見てもロリなんだよなあ……

:ロリッチちゃんちっちゃいからあんまり怖くなくて草

:ロリッチそこ代われ。ゴブキンに近づくんじゃねえ

:ゴブキンガチ恋勢もいて草


 コメントが予想外の反応を見せたが、焦ってはいけない。司会者というものは常に冷静でいなければならないのだ。

 というわけで、吾輩は司会を続けた。


「おほん、ではロ……リッチの紹介はここら辺にしておくとして、実はもう一人特別ゲストを呼んでいる」


:特別ゲスト?

:一体誰なんだってばよ?

:わくわく

:でもロリッチが言うにはゴブキンには知り合いがいないんだろ?

:もしかしてゴブキンの兄とかじゃねえか?

;ってかそもそもゴブリンに兄弟っていんの?


 少し間を置いてから吾輩が頷くと、それに合わせてカメラマンがカメラをパンする。

 カメラの先にいたのはゴブリンでもなければモンスターでもなかった。


「こんにちわー! みなさんご存知『男女男男女ダンジョン』リーダーのシュウです! 今日はなんとあのゴブキンさんにお呼ばれしてここまできちゃいましたー! めちゃくちゃ緊張してますが、しっかり審査したいと思います! よろしくー!」


 タブレットに映る配信画面には、一人の若い男——吾輩がダンジョンが転移してから初めて倒した人間——『男女男男女ダンジョン』のシュウが映っていた。

 

:シュウかよwwwww

:なんだシュウか

:元無双系ダンチューバーさんじゃないですか草

:ロリッチで盛り上がったのにシュウで盛り下がったわどうしてくれんねん

:せめて紹介順が逆だったらなあ……

:お前でしゃばんなよ


「でしゃばるなってこれ元々僕のチャンネルなんだけど⁉」


 シュウは即座に突っ込む。

 あまり好ましくないコメントであるのにもかかわらず、元気よく、決して嫌なイメージは与えないような雰囲気で、あの反射速度でコメントに対応するとは……。


 これがプロのダンチューバーというやつか。

 挨拶もウザさがないとは言えないが、ハキハキと喋っている点は好感がもてる。

 これは参考にしなければならないかもな……。

 吾輩は初めてシュウという人間を尊敬した。

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