第7話 ゴブリン、イベントを主催する
「ふう」
ダンチューバーの制圧が完了して、吾輩は軽く息を吐く。
さて、本来ならすぐにでも侵入者の死体を漁って、使えそうな武器がないか探すところなのだが、まだ仕事が残っていた。
背中におんぶしているリッチの手からスマホを取り、自撮りするようにカメラを向ける。
「シチョウシャの皆さん、お楽しみいただけただろうか」
スマホを裏返して、コメントの反応を見る。
すると、すぐに反応が返ってきた。
:おおおおおおおおおおおおおおお!
:まじやべえええええええええ!
:えぐすぎ
:ゴブリン強すぎワロタ
:伝説を目撃した……
:早すぎて見えないんだけど(怒)
:ゴブリン最強!ゴブリン最強!ゴブリン最強!ゴブリン最強!
:ヤバい。何がヤバいかはわからんが、とにかくヤバい
コメントの流れが早すぎて、文字を処理しきれない。
:[シュウ@男女男男女ダンジョン]あれ? みんな、これ夢だよね? ってか、これ僕のチャンネルだよね? なんでみんなゴブリン応援してんの? もう完全にゴブリンに乗っ取られてない?
:[モデレーター]幻覚です。ゴブリンが人間に勝てるはずがありません。
:元チャンネル主もモデレーターも現実逃避してて草なんだ
:ゴブリンからゴブリンキング——ゴブキンに改名しろ
そしてこの反応が好意的なものなのかどうかもよくわからなかったが、ラスト・ダンジョンに人を呼ぶことが目的な以上、ラスト・ダンジョンの知名度さえ上がればなんだっていい。だから吾輩は配信の同接が十万を超えているのを見て、少し達成感を得た。
「10万人ものニンゲンに見ていただけたこと、大変嬉しく思う」
:ゴブリンのくせに礼儀正しくて草
:なんだ、ゴブキン意外といいやつやんけ
:ここまできちんとしたダンチューバーは今や絶滅危惧種だもんな
:ってかゴブキン、普通に日本語喋ってっけどなんで誰も突っ込まないん?
:突っ込んだら負けだろ、こんなの
:日本人より日本人してる
:同接10万超えってイカれてるわwww
「ただし、正直言って、がっかりした」
:ん?
:流れ変わったな
:何言い出すんだコイツ
:ゴブキンどしたん。話聞こか?
:ん?
:盛 り 上 が っ て き ま し た
吾輩は一呼吸置いて、言う。
「吾輩は強者を求めていた。それは以前伝えたはずだ。それなのに……それなのになんなのだこのザマは!」
:ひっ
:こっわ
:急に大声だすやん
:目血走ってない?
:ごめん
:食べないでぼくおいちくないよおおおおおおおお!
「ニンゲン! お前たちには矜持というものがないのか⁉ 自らの種族こそ最強であるという誇りはないのか⁉ 興醒めだ……興醒めだぞ……」
:ひいいいいごめんなさいいいいい
:あなたの切り抜き見て誇りが消えました
:お前のせいやで
:ゴブキンガチギレやん
:あー、だから『イタリア騎士団』なんかじゃ相手にならないって言ったのに
:【悲報】A級探索者集団『虫ケラの極み』さん、ガチで虫ケラだったwwwwww
:すみませんでした。人類を代表して謝ります
「このまま待っていても、吾輩が求める強者とは出会えないだろう。それに、このまま同じことを続けていては、臆病なお前たちニンゲンはより一層このダンジョンに潜りこまなくなるだけだ。だから——ハンデをやろう」
:ハンデ?
:まじで流れかわってきたな
:同接30万超えそう
:おもろくなってきたあああああああああ!
:[シュウ@男女男男女ダンジョン]ハンデってどういう意味だっけ?
:元無双系ダンチューバーさんバカすぎて草
:[モデレーター]シュウさん安心してください、私もわかりません
:類は友を呼ぶってこういうことをいうんやなって
「武器なしで闘ってやる。もちろん、お前たちニンゲンは弱いから、どんな武器や魔法を使用しても構わない。闘いをより神聖なものにするため一対一の形式にはなるが、連戦も許可する」
:人類舐められてて草
:でもあの切り抜き見ちゃったら舐められても仕方ないよなって
:連戦ってつまりゴブリン一体(武器なし)対人類ってこと?
:そうだと思う
:なんだろう。滅茶苦茶有利なはずなのに、なぜか勝てるヴィジョンが浮かばない自分に驚いたんだよね
「そしてどうせなら強者だけが集う闘いにするべきだろう。弱者との戦闘をお見せしても、シチョウシャは喜ばないだろうからな。そこでまず、ここラスト・ダンジョンでオーディションを行うこととする!」
:オーディション?
:ゴブリン主催のオーディションってなんなんだよwww
:ってかまじ最近のダンチューブおもろくね?
:まあ全部ゴブキンのおかげだけどな。他のダンチューバーはみんなおんなじような内容でマンネリ化してるし
:もしかしてこれからゴブリン系配信者の時代くる?
:お前ゴブリン顔だからいけるよ
そして、いつの間にか定着していたゴブキン——ゴブリンキングの名を拝借して、吾輩は高らかに宣言した。
「ゴブリンの王たる吾輩からダウンを奪えるかを競う戦い——名付けて『ゴブリンキング・ダウン』を開催することをここに宣言するッッ!」
:うおおおおおおおおおおお!
:おおおおおおおおおおおおおお!
:なんか書いとけ
:よくわかんねえどおりゃあああああ!
:【朗報】ゴブキン、ダンチューバーを集めた大会を開くwwwwww
:これだからゴブキンはやめらんねえ!
:おっすオラゴブウ! なんだかゴブゴブしてきたぞっ!
コメントはこれまでにない盛り上がりを見せていた。
どうやら、それなりにうまくいっているらしい。
吾輩はほっとする。
そして今回の配信ではこれ以上言うこともなかったので、吾輩はそのまま配信を切った。その直後、あることに気がついた。
「……そういえばリッチの奴をおぶっていたんだった」
戦闘に夢中になっていて忘れていたが、吾輩の背中にはリッチが乗っている。いつまでもおぶっているわけにもいかないので、吾輩はリッチに降りてもらうことにした。
「おい、もう配信は終わったから、降りていいぞ」
「…………」
「おい」
しかし、いくら呼んでもリッチは返事をしなかった。
こうなったら仕方ないので、吾輩はリッチを落とさないように屈んでゆっくりと下す。
リッチの小さな顔が目に入った。
リッチの目は渦巻きのようにぐるんぐるん回っていた。
「…………」
どうやら吾輩の戦闘のスピードについてこれなかったらしい。
ゴブリン酔いだった。
「……はあ、仕方ない」
このままここに放っておくのも流石にアレなので、吾輩はリッチを横抱きして、家まで運ぶことにした。
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