第75話 安西さんと浴衣と
安西さんと夏祭りに行く約束をした翌週の土曜日。待ちに待った夏祭りの日を迎え、俺は安西さんの家に向かっていた。
「ちょっと早いかもしれないけど」
時刻はまだ2時すぎ。待ち合わせは3時に安西さんの家と決めていたが、安西さんと初めてのデートとなので、家にいても落ち着かず、つい早く来てしまった。
「このまま、近くで待っててもあれだよな。……いや、でもな」
安西さんは今、浴衣に着替えていることだろう。早く行っても迷惑になるかもしれない。
でも、昼ご飯はとっくに食べ終えたしな。浴衣を買いに行きたいけど、着付けもできないし、レンタルだったら事前にしないといけないものだよな。だとしても――。
と、そんなことを考えていたら、お店から出てきた町さんが手を振ってきた。
「あら、斉藤くん、もう来てたのね」
「……えっと、はい。ちょっと待ちきれなくて」
「分かるわ。私も昔はそうだったもの。さ、上がって。杏里も待っているから」
「はい」
町さんに連れられて、部屋に入る。安西さんが部屋の傍で待っているのかと思っていたが、安西さんはいなかった。
「杏里、どこにいるの? 隠れてないで出てきて。斉藤くんが来たわよ」
「え、もう? けど、時間は――」
「ごめん、安西さん、待ちきれなくて」
「はぁ、もうしょうがない子ね」
町さんがカーテンの傍へと向かっていく。安西さんを見つけたのか、町さんは「ちょっと待っててね」といって、キッチンに入っていった。
「ほら、杏里、斉藤くんと一緒に行くんでしょ?」
「でも――」
「でもじゃないでしょ? いくって決めたんだったら、ちゃんとしなさい、ほら!」
町さんがキッチンの方から出てくる。その後ろには、町さんに腕を掴まれ、恥ずかしそうにする安西さんがいて――。
「……っ!」
安西さんの浴衣を見て、言葉が出なかった。それほどまでにきれいだった。
紺色をベースに青色とピンク色で描かれた紫陽花が落ち着きのある大人っぽさを感じさせる。
帯は黄色でシンプルで可愛らしい。髪を結いあげている姿も初めてみたけれど、よく似合っていた。
「……えっと、斉藤くん、どう、かな?」
「……似合ってるよ」
「…………ありがとう」
学校と居酒屋の制服姿しかほとんど見たことなかったけど、今のうちに慣れておかないと。
きっとこれからは――。
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