第73話 安西さんと夏祭り

「斉藤くん、そこマイナスつけ忘れてるよ」

「あ、ほんとだ。ありがとう」


 町さんに早めに上がらせてもらった俺は、久しぶりにお店の隅の机で安西さんと勉強会をしていた。

 町さんにバレてしまったけど、夏祭りにはちゃんと誘いたい。だからこそ勉強会を提案したんだけど。


「じぃー」


 陽介さんがずっとこっちを見てきていた。

 料理を持ちながら、立ち止まって見てきているので、まぁ、怖い。

 これから陽介さんもいることを考えると、これまで以上に言動には気をつけなければならないけど、ここまで監視されると落ち着かない。

 勉強会に集中しないと。そう思って宿題を再開したところで、


「また間違ってるよ? 何かあった? もしかしてまだ――」

「いや、加賀谷のことはもう大丈夫だから」

「でも」

「心配いらないって、ちょっと考え事してただけだから」


 このままじゃ、安西さんを心配させちゃうな。夏祭りも誘えないし。どうしたら――


「――陽介さん、まだ料理は残っているわよ?」

「……えっと、町さん、これはその――」

「2人の邪魔をするのはいけませんよ?」

「……はい」


 町さんに連れられ、陽介さんがキッチンへ戻っていく。

 安西家での力関係がなんとなく分かった気がする。

 いつも町さんに助けてもらってばかりな気がするけれど、これで安西さんに――


「あのさ、安西さん、一緒にお祭りに行かないか?」

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