第72話 お父さんと今後

「ごめんなさい、驚かせてしまったわよね。斉藤くんにはあの人に会わせるのはまだ早いと思っていたの」


 更衣室で町さんに注意された俺は、制服に着替えた後、町さんに呼び出され、休憩室で向かい合っていた。


「そんなことを思ってたんですか? 驚きはしましたけど。でも、良い人でしたから」


 安西さんから陽介さんがお父さんだと聞いたときは、本当にお父さんかと疑ったほどだ。

 お父さんと分かった後も、付き合っていないとはいえ、勉強会もしているし、あまり喜ばれないかと思っていたが、安西さんと仲良くしてもいいと言ってくれた。

 海外に行っていたことも誤解と分かった今、ちゃんと謝ってまた話ができたら、いろんなことを聞いてみたい。


「あら、もう話していたのね。あの人、斉藤くんのことを伝えたら、杏里は渡さんって怒ってたのに。じゃあ、もっと早く合わせるべきだったかしら」

「いや、それはまだ遅かった方がよかったというか……」


 会ったときには親切で礼儀正しい優しい人だと思っていたけれど、そんなことを思われていたなんて。

 2人を放っておいてなんて言ってしまったのを、怒っていないだろうか。


「でも、遅かれ早かれ会うことにはなっていたのよ」

「いや、まだ、安西さんとは何もないですし!」


 付き合うどころか、告白すらしていない。お父さんに会うなんてそんなの速いに決まってる。

 ただ町さんと思っていたのは違ったようで。


「あら? もうここで働き続けることになったからって意味だったのだけど、何を思ったのかしら。でも変ね、沙季から聞いていた話とは少し違うわ。杏里といいコンビだったと聞いていたのだけれど」

「安西さんとは一緒にキッチンを担当しただけですから!」


 沙季さん、町さんに報告するとか言っていたけど、なんてことを伝えているんだよ。


「……そうだったのね」


 そう言って、うふふと笑いだしながら、町さんはスマホを制服のポケットから取り出すと、何かを打ち込んでいた。

 ……やっぱり町さんは怒らせない方がいいな。


「それで……えっと、陽介さんがこっちで働き続けるって」

「あ、そうだったわね。その話をしなくちゃいけないわよね。陽介さんはもともと、近々帰国する予定だったの。ただ、日程は決まっていなくてね。そこに、沙季から連絡がきて、ちょっと帰国を早めてもらったのよ」

「えっと、つまり、これからは、と」

「そうね、あの人はちょっと不器用な人だけど、斉藤くんも理解してあげて欲しいわ」

「分かりました」


 俺がいても回っていない状況に、陽介さんが加われば、だいぶ楽にはなるはずだ。

 きっと安西さんだって、学校で寝ることはなく――なるのか……。


「じゃあ、話は以上よ。さっそく今日も、と言いたいところだけど、そのポケットに入っている紙は何かしら」

「え?」


 ズボンのポケットを見ると、夏祭のパンフレットが見えていた。

 町さんから連絡が来て、すぐに出かけたから紙を持ってきていたことを忘れていた。


「……えっと、これは」

「その日は杏里に今日のお手伝いはいいからって伝えておくわね」

「……ありがとうございます」



(明日から夏祭り編スタート! ようやくスランプから抜け出せました)

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