第71話 安西さんとお父さん

「……えっと、安西さん? お父さんって」


 お父さんという言葉が気になった俺は、すぐに安西さんに尋ねていた。


 安西さんと町さんからお父さんのことを聞いたことはなかったし、この居酒屋にいないから、そういうものだと思っていたけれど、まさか海外にいたとは予想外だった。今日会うとは思っていなかったから、なにも用意をしていない。


 こっちに気付いた安西さんは、俺がいたことを知らなかったのか、驚いた顔をしていた。


「あ、斉藤くんもいたんだね。お父さんはお父さんだけど?」

「……そうだよね」


やっぱり安西さんのお父さんだった。どことなく、雰囲気もにている気がする。だけど、なんで――


「どうして、安西さんたちを置いて、海外にいったんですか?」


思っていた言葉が口から漏れていた。

父さんにだって聞いたことはない。忙しいと分かっているし、答えてはくれないだろう。でも、この人だったら、安西さんのお父さんだったらきっと。


「斉藤くんは素直だね。そういうところは悪くないと思うよ。どうしてか、か。僕はもともと、海外に興味があってね。貧国のボランティアに携わりたいと思っていたんだよ」

「……ボランティアですか」

「そうなんだよ。斉藤くんも聞いたことがあるだろう?」


確かにテレビで見たことはあるけれど――


「でも、2人を放っておくなんて」


 安西さんのお父さんにはしてほしくはなかった。


「斉藤くんには、そう見えてしまったかもしれないね。君にまで迷惑をかけてしまった。すまな――」


 安西さんのお父さんが頭を下げようとしたその瞬間、


「安西さん?」


 安西さんが間に入ってきた。


「お父さんは悪くないんだよ、私が行ってもいいっていったの。お父さん、何度もいきたいって、最後のチャンスって言ってたのに、2人を置いていけないからって。だから行ってきてって」

「そうなんですか?」

「ああ、そうだよ。でも、こんなになるまで2人にだけ働かせてしまったのは僕の責任だ。父親として恥ずかしいね」


 そう言って、安西さんのお父さんは申し訳なさそうにしながらも笑っていた。

 ちゃんと話して決めていたんだろう、それなのに俺はまたお節介なことをしてしまった。


「いや、陽介さんは悪くないですよ。そんなことを知らなかったのに、俺が聞いちゃったのが――」

「いや、僕が――」


「2人とも、何やってるの! 早く戻ってきて――って陽介さん、戻ってきてたのね」

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