第67話 海の家とお別れ
「2人とも、この一週間ありがとね」
加賀谷と別れた日の翌日、近くの駅まで送ってくれた沙季さんは、名残惜しそうにそう呟いた。
海の家のバイトは昨日まで。町さんにも連絡はしてあるので、帰ることは決まっている。それでも車の中でも俺たちにまだいてくれないかと聞いてきていたので、沙季さんはまだ俺たちにいてほしいのだろう。
「こちらこそ、今回はありがとうございました。最後の日も抜け出しちゃったのに」
海の家に戻った後、沙季さんは俺と安西さんを心配していたが、何も言わずにアパートまで送ってくれた。
「そんなの良いのに。斉藤くんは最後までいい子ね」
「いや、そんな、普通ですから」
「そう? でもいいんだよ。斉藤くん、来たときよりもいい顔してるからね。ほんとは怒ろうかとも思ったけれど、変われる何かがあったんでしょ。私、店長だから。従業員のことは見てるからね」
そう言って、ニコッと笑う沙季さん。
最初は忘れっぽくて、戸惑わせてきて、どうなることかとは思っていたが、最後まで沙季さんはいい人だった。
「そうですね。変われたんだと思います」
「うんうん、やっぱりいい顔になってるよ」
「……そうですかね」
「そうだよね、杏里ちゃん」
「はいっ」
安西さんまでそんなことを言うなんて。きっとそうなんだろうけど、ちょっと恥ずかしい。
顔を隠すために後ろの壁に設置されていた時計を見ると、予定していた電車がくる5分前だった。
「じゃあ、沙季さん、俺たち」
「あ、もうそんな時間なんだね。2人が来てくれて助かったよ。あの店は続けていくからさ。何度も言ってるけど、お客さんとしてでもバイトにしても、いつでも来ていいからね、待ってるから」
「「はい」」
そう言って、俺と安西さんは改札を通り、ホームに向かう。後ろを振り返ると沙季さんが手を振っていた。
初日からいきなり投入されたり、プールに行くことになったり、いろいろあったけれど、安西さんとここに来れてよかった。
今回は町さんの提案だったけど、お手伝いばかりな安西さんを今度は――
「どうしたの、斉藤くん、行くよ」
「そうだね」
俺から遊びに誘ってみよう。
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