第66話 親友とさよならと
「そういえばさ、その人、お前の彼女か?」
「え?」
数分が経ち、疲れて海辺で倒れ込んでいた俺が起き上がると、先に立ち上がっていた
後ろを向くと、そこには。
「
制服姿の安西さんがいた。きっと気になって終わってすぐに駆けつけてくれたんだろう。
「あぁあ、あの芳樹にも彼女か」
「いや、ちが――」
「いいって、そんな嘘つかなくてもさ」
嘘じゃないんだけど。そんな言葉は今の加賀谷に言っても分かってくれないんだろう。でも、嫌な気持ちはなかった。
「じゃあ、彼女さん。芳樹を頼むぜ。俺はこうなっちまったけどさ。こいついいやつだから」
「知ってます。斉藤くんはちょっと面倒なところもありますけど」
「そうなんだよな。やっぱりそこだよな。彼女さんも分かっちゃうか。あ、困ったら天江のやつに相談してみたらいいよ。多分同じ学校だろうから」
「はい、じゃあ相談してみます」
「ちょ、安西さん!」
安西さんがこっちを見て、ふふっと笑う。
俺、そんな面倒なところなんてないと思うけど……。
「こいつ自覚ないんだよな、そういうの」
「そうなんです」
「彼女さんも分かっちゃうか。苦労してるんだな」
「でも、そういうところも含めて斉藤くんですから」
ニコッと笑う安西さんの頬が夕焼け色に染まっていく。
そういうところも含めてか。
俺は何回安西さんのことを好きになったらいいんだろう。
この想いが一緒だったらいいのに。そしたら本当に――
「羨ましいよ。俺には彼女とかできたことないからさ。2人みたいな人が」
「きっと加賀谷にもできるよ」
「そうか、お前が言うんだったら、そうかもな」
安西さんの幸せそうな笑みを見て、そう感じたのかもしれない。
ひとしきり笑った加賀谷は、また照れくさそうに頬をかいていた。
「じゃあ、またどこで会うか分からないけど」
「また会いに行くとは言ってくれないんだな」
「芳樹はなんでそんなことが言えるんだよ! まぁ、会いにいけたら会いに行くよ。天江とも会いたいしな」
「お前、昔から天江のこと好き――」
「おい、それ以上言うなよ? 天江にも言ってないよな?」
「言ってないって!」
「だったらよし」
なんだよそれ、とまた加賀谷と軽口を叩きながら笑い合っていると、安西さんの方からあくびが聞こえてきた。
もう帰らないとか。
加賀谷には悪いけれど、また夏休み前みたいに安西さんが授業中にずっと寝るようになるのは避けたい。
「じゃあ、加賀谷」
「あ、そうだよな、もうこんな時間だもんな」
加賀谷の気持ちも分かる。俺はお前ともっと話していたい。でも今は、安西さんの方が大事だ。
「今日は話せてよかった。今度、また天江と一緒に3人で話そうぜ、昔みたいに」
「そうだな、また昔みたいに」
「じゃあ、またな。加賀谷」
「こっちこそ、元気でな、芳樹」
そう言って、俺たちは手を振り、お互いに待つ人たちの場所へ背を向けて歩いた。
いつになるか分からないけれど、きっと加賀谷とは近いうちにまた会えるだろう。その時はちゃんと彼女だと言えるように。
想いを伝えないといけない。
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