第65話 加賀谷くんと斉藤くん⑤
「なぁ、加賀谷。それでも俺は。それだったらもっと――」
謝らなきゃいけないはずだ。
「まだそんなこと言ってるのかよ。もういいんだって。俺はお前にずっと憧れてた。あのとき、お前と天江との日々が一番好きだった。壊されたくなかったんだよ。お前と話したくはなかったのも、俺のことを背負わずに、ずっといつもみたいに誰かを助ける、それこそヒーローでいてほしかったからなんだよ。ああ、もう、いわせんなよ、こんなこと。恥ずかしいんだからさ」
「……加賀谷」
何度も加賀谷には助けられた。迷子になっていた子を助けようとして遅刻した時も、一緒になってその子の母親を探してくれた。俺が走るのが苦手と分かっていて、一緒にマラソンの練習もしてくれた。あのときだって、あのときだって、何度も、何度も、助けられた。そして、最後まで加賀谷は俺たちのことを思ってくれていた。憧れているとも言ってくれた。
だったら俺が言うことなんて、もうこれしかないだろう。
今まで一人で背負ってくれていた加賀谷に、俺は精一杯の気持ちを乗せて声を発した。
「ありがとう。今までお前に何度も助けられた。お前がいなかったら、俺はきっと何もできなかった。お前といた日々は俺の宝物だよ」
もう加賀谷には友達がいる。今までのようにはいかないかもしれないけれど、きっと俺たちは前に進めた気がする。
俺の言葉を聞いた加賀谷は、照れくさそうに人差し指で頬を撫でていた。
「ああ、こっちが恥ずかしくなるだろ! いちいち、そういうこと言うの、お前の悪いとこだぞ!」
「なんだって、俺がお前のことを思って言ったんだぞ!」
「だから、そういうとこなんだって、芳樹はこれだから」
「おい!」
そう言い合いながら、俺と加賀谷は夕日が沈む海辺で笑い合っていた。
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