第64話 加賀谷くんと斉藤くん④
「こうやって話すのは久しぶりだな、加賀谷」
「そうだな」
「お前が転校してぶりくらいか。隣町に引っ越したんだっけ。今日は……友達とでいいんだよな」
「ああ、友達だよ。一緒に海に行こうって誘われてさ。この後は花を見に行くつもりだったんだ。ここらへんに有名ななんとかの里って場所があるらしくてさ。あんな髪染めてるのに意外だろ?」
「……そうなんだな」
いつもだったら驚いているだろう、加賀谷の友達のことには、今は意外なんて感じなかった。
それよりも加賀谷から友達という言葉が出てきたことに俺は驚いていた。
あんなことがあったのに、お前はもう変われていたんだな。
きっと、さっき赤髪の子に背中を押されていたみたいに、誰かに支えられてきたに違いない。
あのとき近くにいた俺がしてあげられなかったことを。
そう考えると余計に思えてきてしまう。余計なことをしなければよかったって。だからこそ、ちゃんとここで謝らないといけない。
「……加賀谷。俺、あのときのこと――」
そう思い、俺が頭を下げようとした瞬間、加賀谷が俺の手をぎゅっと掴んだ。
「何か勘違いしてないか? 芳樹」
「勘違いなんてしてない。俺があの時、あんなことをしなければお前は――」
いじめられずにすんでいた。
しかし、そんな俺の言葉を遮るように、加賀谷は首を振る。
「違うよ、芳樹。俺はお前に謝ってほしくない」
「けど、お前は……」
「俺はお前の行動が嬉しかったんだぜ? いつも誰かを助けて毎回俺たちを困らせてきたけどさ」
「だったら」
「違うんだよ。俺もお前のお節介に助けられた」
「だったら何で、俺たちに何も言わずに転校していったんだよ。俺はお前の事がずっと心配で」
「それは……」
一呼吸おいて、加賀谷は絞り出すように呟いた。
「悪かったよ。でも分かってほしい。芳樹と天江のためだったんだ」
「……俺たちのため」
「聞いちまったんだよ。あいつらが芳樹たちも標的にしようとしていたのを。だからさ、俺は学校から逃げて、ちゃんとしたところに相談することにした。そしたら、その後は知ってるだろ?」
知っている。加賀谷が転校した後、いじめていた生徒たちは全員、学校に来なくなっていた。
つまり加賀谷はいじめられながらも、天江や俺たちを助けようとしてくれていたってことになる。でも、
「だったらなおさら、俺たちに教えてくれたってよかっただろ。お前が1人で背負うことじゃなかったはずだ」
「そうかもな。俺も途中からだけど、2人には教えといたほうがよかったって思った。でもさ、お前らに心配をかけたくなかったんだよ。俺もお前みたいにカッコいいお節介なやつになってみたかったんだ」
そう言って、加賀谷は涙で顔がくしゃくしゃになりながらも笑っていた。
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