第63話 加賀谷と斉藤くん③
「加賀谷!」
席を立ち帰ろうとする加賀谷を俺は止めていた。この後、何を話すかなんて考えてはいない。加賀谷の友達らしき髪を染めた4人の男子は、急に後ろから声をかけてきた俺に驚いて振り返っていた。
加賀谷は俺の声が聞こえて戸惑ったのだろう、4人の後にそっと俺の方を向いた。
「……芳樹」
「今いいか? 話したいことがあるんだよ」
「悪い、もう行かなきゃいけないんだわ。この後、予定があってさ」
そう言って、加賀谷は友達の背中を押しながら、離れようとしていく。
加賀谷が俺とあの時のことを話したくないのは分かっている。あまり俺と会いたくないことも。それでも俺はちゃんとお前と。
「お前ともう一度、ちゃんと話したいんだ」
そう言っても、加賀谷は足を止めなかった。段々と距離が遠くなっていく。もう一度、加賀谷を呼び止めようとした瞬間、赤髪の少年が加賀谷の手を止めた。
「いいのか? 光輝。お前のダチなんだろ?」
「いいんだよ。あいつとはいろいろあったからさ。それよりもあの場所行くんだろ? 早くいかないと閉まって――」
「わりぃ、お前ら。光輝があいつと話しがあるみたいでさ。あの場所に行くの、また今度でもいいか?」
赤髪の少年が他の3人にそう伝えると、3人は顔を見合わせて頷く。
「もちろんいいぜ」
「あ、光輝、今度おごりだからな?」
「じゃあ、あそこ行こうぜ。前に行ったあの焼き肉屋」
「お、賛成!」
「おい、照屋まで」
加賀谷のこんな笑った姿を見たのはいつぶりだろう。
昔はいつも陰で泣いていたが、俺が安西さんと出会ったように、この4人と出会って加賀谷も変われたんだろう。
「悪い子とはいわねぇ、何があったか知らねぇが、行ってこい」
「……照屋、ありがとう」
4人に背中を押された加賀谷がゆっくりとこっちへ近づいてくる。
ここからだ。俺は今からちゃんと過去と向き合わなければいけない。そのために。
「待たせたな、芳樹」
「いいや、待ってないよ」
「じゃあ、いくか」
「ああ」
さっきの間に心の整理はついていた。
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