第61話 海の家と最終日
「安西さん、場所交代しよう、こっちの方がやりやすいと思う」
「うん、分かった。斉藤くん、次、かき氷だって。まかせてもいい?」
「大丈夫、こっちすぐ出来上がるから。よし、できた。お待たせしました」
「斉藤くん、そっちに――」
「あ、安西さんこっちに忘れてる」
「ありがとう! うん、できた。お待たせしました、こちら商品になります。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
海のバイトも一週間経つと、ある程度は慣れてきた。最初は安西さんとマニュアルを見ながら協力して作業していたが、今ではマニュアルを見なくても対応でき、安西さんと連携して分担作業ができるようになっている。
我ながらすごい進歩だ。
まぁ、少しは失敗して、安西さんに助けてもらっているけど。
しかし、今日は――。
そんなことを思いながらも、お客さんが少なくなり、休憩に入らせてもらった俺と安西さんは、沙季さんに声をかけられた。
「すごいね2人とも。もう即戦力っていうかあれだよね。町のところじゃなくて、家で働かない?」
「……いや、それは」
「まぁ、そうだよね。けど残念だよ。町からもう少し時間を延ばしてもらったらよかったんだけど」
そう、町さんから助っ人として頼まれていたのは、一週間。つまり今日が最終日だった。作業を覚えたはいいけれど、今日で最後。この経験が居酒屋に戻っても役に立つとは思うけれど、ようやく覚えたのにと、少し寂しい気持ちもある。安西さんも同じ気持ちなんだろう。機材を見ながら俯いていた。
「また、忙しくなったら呼んでください。できる限りは参加しますから」
「いいこと言ってくれるね、斉藤くん。じゃあ、また明日から――」
「それはできませんって」
「そうだよね。もちろん冗談だよ。杏里ちゃんも気にしなくていいからね」
「はい。あ、私もまた手伝える時があったら絶対きます」
「2人とも、うれしいよ」
そう言って、沙季さんは俺たちに抱き着いてきた。これだけ喜んでもらえるなら、本当に来てよかった。
* * *
「じゃあ、ラスト、頑張ってね」
休憩時間が終わり、沙季さんと安西さんと一緒に挨拶を済ませた俺は、沙季さんにそう言われ、残りの時間も2人でキッチンを担当することになった。
残りは2時間。
2時間といっても、ほとんどはシャワーを浴びに来る人ばかりで、こっちに来る人はいない。
「安西さん、最後も頑張ろう」
「うん、斉藤くんもね」
最後くらいはミスをしないように気をつけよう。
そう思った瞬間だった。
次のお客さんを相手しようとした俺は、目の前のお客さんを見た瞬間、持っていた商品を落としていた。
「次の方――って、加賀谷……」
「また、会っちまったな。……芳樹」
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