第60話 プールと感想戦

「桜井から聞いたよ、チケット貰ってプールに行ったんだって? 杏里ちゃんとのプールはどうだった? 杏里ちゃんの水着可愛かったでしょ? 私が選んであげたんだよ! 斉藤くんのために選んだものだったんだから」

「……いや、安西さんの水着は見てなくて」


 プールから沙季さんのアパートに戻った俺は、帰っている途中で寝てしまった安西さんを部屋へ送り届けた後、部屋の前で待っていた沙季さんから質問攻めにあっていた。


 プールで遊び過ぎて、ご飯を食べたらすぐに寝たい気分なのだが、酔っぱらっていた沙季さんがふらつきながら部屋まで入ってきてしまったので、どうすることもできない。

 俺が水着についての質問の答えを返すと、沙季さんはがっかりしたように肩を落とした。


「杏里ちゃん、見せてくれなかったの? 杏里ちゃんには見せてあげてって伝えたんだけどなぁ」

「そうなんですか?」

「ん? そうだよ。杏里ちゃんもその時は、頷いてくれていたんだけどね。やっぱり恥ずかしかったのかな。そういうところ、ほんと、まちと似てるよ」


 沙季さんとそんな約束をしていたなんて。プールのときはずっとラッシュガードを着ていたけれど、安西さんも同じ気持ちだったと思うと恥ずかしくなってくる。

 

「水着を見せてもらえなくても、2人ともプールにはちゃんと行ったんだよね?」

「もちろんですよ。いろんなプールで遊びましたし」


 流れるプールから波のプール、ウォータースライダーまで、結局、休憩後も全て回ることになった。安西さんともう一度、プールに行く約束はしたが、その前に体力をつけないといけないと思ったほどだ。


「ふ~ん、けどそれにしては2人とも進展してないように思うけど?」

「……それは」


 安西さんが俺に対して他の男子よりも意識してくれているのはもう気づいている。それでもまだ、安西さんの気持ちすらわからないのに、告白なんてできない。無理に告白して嫌がられたりしたら嫌だ。


「まだ、俺は安西さんとはそういう関係にはなれませんよ」

「へぇ、斉藤さいとうくんは、そんな感じなんだね」


 沙季さんはそう言って、ポケットからメモ用紙を取り出し、何かを書くとまたポケットにしまっていた。


「えっと、これ、何の質問なんでしたっけ」

「ああ、ごめんね。これ、町に言われててさ。2人のここであったことを伝えなきゃいけないんだよね。あ、これは町には内緒ね? 2人に伝えちゃいけないって言われてるから」

「……そうですか」


 町さんもきっと何かあったらいけないと思って、沙季さんにこんなお願いをしていたんだろう。俺たちの前で直接質問するとは思っていなかったと思うけれど。


「じゃあ明日からも2人には頑張ってもらうから、よろしくね」


 数分が経ち、沙季さんからの質問を答え終わると、沙季さんは部屋から出ていった。


「……いったい何だったんだろう」

 


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