第58話 安西さんと流れるプール

「斉藤くん、遅いよ!」

「……安西さん、早すぎない?」


 膨らませていた浮き輪を渡し、安西さんに連れられた先は流れるプールだった。

流れに身を任せて、俺と安西さんは話しながら浮き輪でぷかぷかと泳いでいたが、浮き輪がぶつかり、安西さんが遠く離れていく。

 遅いよと言われても、正直どうすることもできないんだけど。

 運動は苦手なので、このままの状態を保つことしかできないし、浮き輪をつけていても溺れないか心配になる。


「安西さん、俺、いったん上がるから」


 そうこう考えているうちにも安西さんが見えなくなってきていたので、俺はプールから上がることにした。

 陸に上がり、体育座りをしながら、そっと安西さんが流れてくるのを待つ。


「……一緒に泳ぎたいけど、迷惑になったら嫌だし、やっぱり見てる方がいいな」


 バタバタと足を漕ぎながら逆走しようとする子供もいる中、浮き輪に腰を落として浮かぶ安西さんは、水をバタッと蹴っていた。

 楽しそうな表情を浮かべて泳ぐ、安西さんを見るとこっちまで嬉しくなる。


「やっぱり今日は来てよかったな」


 昔は天江や加賀谷たちとプールに来て遊んだりもしていたけれど、年が経つに連れていかなくなっていた。もうこんなところに来るなんて思ってもいなかったけど、隣には好きな人がいる。


 きっと来年も。


 そう思った矢先のことだった。


「てぇい」


 そのまま流れに乗って一周してきた安西さんは、浮き輪から降りて、こっちに向かって水をかけてきた。

 顔にかかった水を拭い安西さんを見ると、ふくれっ面をしている。


「……えっと、安西さん?」


 そのまま、安西さんは陸に上がってくると、俺の手を取ってプールにそのままダイブした。


「安西さん、危ないって」

「……私一人だけ泳いでても、楽しくないから」

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