第57話 安西さんとプール
「本当に来てしまった」
海の家バイト3日目も無事に終了し、
着替えのために別れたけど。
「……安西さんと一緒にプールか」
安西さんから一緒に行こうと言われたら断れるわけがないし、一緒に来たいと思っていたが、どうしても一つだけ不安があった。
「クラスの誰かと鉢合わせしたらと思うとな」
このプールは学校から離れてはいるけれど、学校から一番近い海はここだ。海に遊びに来て、プールに行くなんて人はあまりいない気がするけれど、もしかしたらの可能性もある。
安西さんから誘ってくれたのは嬉しいけど、二人きりのところを見られたりしたら誤解されかねない。
「その前に、他の人から安西さんを守らないとだけど」
水着に着替えて、更衣室を出る。
夏休みということもあってだろう、多くの親子連れが通り過ぎていく。待ち合わせ場所についたが、安西さんはまだいなかった。
女の子の着替えは時間がかかるだろうし、浮き輪でも膨らませておくか。
沙季さんに借りた、足で踏むタイプの空気入れを使って、浮き輪に空気を入れていく。
「結構、時間がかかるんだよな、これ」
結局、口で直接空気を入れた方が早いと分かり、空気入れを鞄に仕舞っていたら、ロッカーの方から安西さんがこっちに向かってくるのが見えた。
「斉藤くん、ごめん、待ったよね」
「……いや、待ってないよ」
転ばないようにゆっくり歩いてきた安西さんが俺の前にやってくる。
ただ、俺は気づかれないように溜息を吐いていた。
ま、そうだよね。
安西さんの水着姿なんて、人目を惹かないわけがない。きっと安西さんもそれを分かってそれを選んだんだろう。
安西さんは黒色のラッシュガードを着ていた。
見せてもらえるとは思っていなかったけれど、ちょっと期待していた分、恥ずかしくなる。
「どうかな?」
胸元に手を当てた安西さんが、少しだけ距離を詰めてくる。
どうかなって言われても!
好きな子が水着姿で、至近距離で話しかけてきたら誰だって、恥ずかしくなって堪えられないに決まってる。
「……似合ってるよ」
顔を背けながら、俺がそういうと、安西さんがそっと頬に触れてきた。
「えっと、安西さん?」
「……ちゃんと見ていってほしいかな」
安西さんに顔を正面に向けられる。
手が離れていき、少しだけ目を開けると、安西さんの水着姿がばっちりと視界に入った。
「……っ」
恥ずかしくてちゃんとは見れていなかったが、思わず声が漏れるほど、美しい体型だった。
腕は細く、この身体でいつもジョッキを運んでいたと思うと、心配になってくる。出るところはきっちり出ており、胸部はラッシュガードでも分かるくらいふっくらとしたラインが描かれていた。
「似合ってるよ」
きっと、ラッシュガードの中には、安西さんが今日のために選んでくれた水着が隠れているのだろう。本当はそっちの感想も言ってあげたいけれど、見せてもらえるようになるまではこのままの方がいい気がする。
だって、ラッシュガード姿も似合っているんだから。
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
そう言って、安西さんは俺の手を取り、プールの方へ向かった。
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