第56話 安西さんと約束
「君たちって付き合ってんの?」
「……えっと、俺と
付き合ってはいない。そのはずだけど、本当にそう言っていいのだろうか。
嫌いかもしれないと思われそうな、すぐに「付き合っていないです」と返すのは回避できたけど――。
安西さんの方を確認する。安西さんは俺が質問にどう返事をするのか気になるのだろう、じっとこっちを見つめていた。
「まぁ、言いたくないならいいよ。町に言われたことが少し気になっただけだから」
「いや、そんなことは」
「じゃあ、どうなの?」
ここはもう正直に伝えるか。付き合っていないんだ。そんな事実を隠していたって意味はないよな。きっと本当に気になっただけなんだろう。
「俺と安西さんは付き合っては――」
付き合っていないと正直に伝えようとした瞬間。
「付き合ってないです! 」
安西さんが俺よりも早く、桜井さんにそう大声で告げていた。そりゃあ、そうだよな。付き合ってはいないんだから。そのはずだけど……そう言ってほしくはなかったな。
クラスでも眠り姫と呼ばれるくらい人気があるし、きっと安西さんには好きな人がいるんだろう。
「……(まだ)」
安西さんがなにかを言った気がするけれど、気のせいだよな。
「そうなんです。付き合ってはいなくて。俺なんかが安西さんとなんて無理ですよ」
「へぇ、そういうこと言うんだ。やっぱりどっちも町から聞いてた通りだね」
そう言って、桜井さんはうなずくと、持っていた鞄の中から二枚の紙を取り出した。
「まぁ、いいや。2人のことも聞けたことだし、私は戻るよ。あ、これお姉さんからのプレゼント。行ってきなよ、2人で」
桜井さんがプレゼントといって渡してきたのは、海の家の近くにあるプールのチケットだった。チケットを渡した桜井さんは「また今度会うかもね」といって、休憩室から出ていく。その途中、安西さんの肩を叩いて、耳元で何かを呟いていたが、俺は何も聞こえなかった。
「えっと、安西さん、これどうする? 桜井さんには一緒に行くように言われたけど――安西さん?」
なんでそんなに顔が真っ赤になっているんだ。
「さっき何か桜井さんに言われてたけど、何かあった?」
「……あ、ううん、何もなかったから。えっと、プールのことだよね。うん、一緒に行こう!」
「……う、ん?」
安西さんとプールに?
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