第55話 安西さんと桜井さん
「安西さん、 また注文が入ったみたい。今度はかき氷なんだけど、できそう?」
「……ちょっと出来ないかも」
「分かった。こっちでどうにかしてみるよ。あ、また注文が――」
2日目もお店は好調だった。沙季さんも少しだけ手伝ってはくれてはいたが、引っ切り無しにオーダーが入り、キッチンは今日も大慌て。熱さに苦しみながら、安西さんとなんとか危機を乗り越え、時計を確認するとすでに3時を過ぎていた。
「お疲れ様、今からの時間はシャワーの方に集まるから、2人とも休憩行ってきて!」
「……はい、わかりました……」
沙季さんにキッチンを任せて、休憩室に行く。喉がカラカラになっていた俺は、自販機で2つスポーツドリンクを買って片方を一気に飲み干した後、花火の絵が描かれたうちわをあおいでいた安西さんに片方を手渡した。
安西さんも喉が渇いていたようで、渡してすぐにスポーツドリンクは半分くらいなくなっていた。
「今日も結局、2人だったね」
「そうだね。こうなるならここに来る前に、
「私も、お母さんにもっと聞いておけばよかった」
沙季さんが手伝ってくれていたのはドリンクがほとんど。調理は今日もマニュアルを見ながらだった。いつも居酒屋では、
そんなことを考えていたら、いきなり休憩室の扉がバンっと開く音がした。
「あ~あ、やってらんねぇ! 今日も疲れんだよ、ちくしょう!」
中に入ってきた女性が溜息を吐きながら椅子に座る。ポケットから煙草を取り出した瞬間、女性は俺たちに気付いたようで、目を大きく開けた。
「あ、ごめん、ごめん。いるとは思わなかったわ。さっき言ってたこと、沙季には内緒ね? バレるとまたどやされるからさ、これでも頑張ってるんだけどね」
そう言って、女性は煙草を仕舞うと、自販機でコーラを買って、ぐびぐびと飲み始めた。
女性がドリンクを飲んでる最中、俺はすぐさま、ある確認のために安西さんに向かって首を傾ける。するとすぐに安西さんが首を横に振った。やっぱり、知らないか。
……この人、誰なんだろう。
俺と安西さんはキッチン担当だけど、ホールでこの女性を見たことがなかった。沙季さんの知り合いなことは確かだと思うけれど――
「君たちさっきから私のこと見てくるけど、もしかして、君たち私のこと知らない?」
気づかれてた?
確かに、安西さんと見たりはしていたけれど。
「あ~そっか、知らないか。そういうの、お姉さん分かっちゃうんだよね。沙季のやつどうせ、私のこと伝えてなかったんでしょ」
「えっと、沙季さんのお知り合いですか?」
「そうといえばそうかな。私も君たちと同じようにここで助っ人を頼まれた一人なんだよ。まぁ君たちが私を知らないのも分かるよ。私、ここにはあんまり来なくて裏方の業務ばっかりやってるからさ」
「そうなんですか?」
だったら俺も安西さんも知らないはずだ。一緒に泊まることも忘れてたと言っていた沙季さんのことだ、このことも忘れていたんだろうけれど。
「そ、今日はちょっと用事があってきたんだけどね。あ、私、桜井っていうからよろしくね」
「……よろしくお願いします」
「お願いします」
「そんな畏まらなくていいって。君が町と沙季が言ってた助っ人の斉藤くんでしょ? そっちは町の娘さん」
「「え!? 町さん(お母さん)のことも知ってるんですか?」」
「あれ? そっちも知らなかったの? 沙季のやつ、ほんとなんも話してないんだな」
きっと何度も沙季さんに忘れられているんだろう。桜井さんは舌打ちをしながら続ける。
「まぁ、そんなことどうでもいいや。町や沙季のやつから2人のこと聞いてずっと気になってたんだけどさ――」
「君たちって付き合ってんの?」
え?
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