第53話 安西さんと泊まる場所

「いやいやいや、ちょっと待ってください! 安西さんと同じ部屋で過ごすなんて無理ですって!」


 安西あんざいさんが風邪を引いたときに、まちさんに部屋を案内されて入ってしまったことはあるけれど、それとはわけが違う。俺のことを信頼してくれているのは嬉しいけれど、一緒になんて絶対に無理だ。


 町さんも時々からかってくることがあるし、沙季さんもきっと冗談を言ってきたに違いない。


「もちろん、冗談ですよね?」

「冗談なんて言わないよ。2人には私の家に泊まってもらうから。もちろん、町には許可はとってるからね」


 俺の許可は?


「いや、それでも無理ですって!」


 安西さんと海に行けると少し浮かれていたけれど、こんなことになるなら、海の家なんていかない方が良かったかもしれない。


「でも、斉藤くん。杏里ちゃんとお泊りだよ?」

「それがダメなんですって!」


 もし、何かあったら関係崩壊どころじゃない。きっと安西さんだって――

 と、安西さんを見ると、安西さんはぐっすりお休み中だった。


「そういえば、寝ていたんだった」


 どうしよう、このまま帰ってもいいけれど、あの作業を安西さんに押しつけるのは嫌だ。かといって、高校生が1人でホテルに泊まるなんてできるか分からないし、家に帰ってまた来るとなると交通費が計り知れない。


「どうする? 斉藤くんだけでも帰る?」

「そんなことは……」


 町さんのうふふと笑っている表情が目に浮かぶ。きっと町さんもこうなることが分かっていたんだな。

 ああ、もう。決まってしまっていることなら仕方がない。一緒の部屋で寝るだけ。それだけだ、他には何もしなければいいんだ。


「……分かりました。沙季さんの家に泊まらせていただきます」


 よろしくお願いします、と頭を下げて、俺は安西さんを起こして、沙季さんの車に乗る。沙季さんの家は車で十分くらいのアパートだった。


「じゃあ、ここが斉藤くんの部屋の予定だから、好きに使ってね」


そう言って、沙季さんが案内してくれたのは103号室で――


「って、別々だったんですか?」

「あれ、言ってなかったっけ。ここ、私の祖母が管理していた場所なの。今は助っ人に来てくれた子たちが寝泊まりする仮施設になっているけれどね」

「……よかった」


 どっと疲れが襲ってくる。沙季さんから鍵を受け取った俺は、鍵を閉めてそのままベッドに倒れ込んだ。

 これで、安西さんと安心して夏休みを過ごせる。

 そう思っていたんだけど――

 

 翌朝、目を開けたら、安西さんの顔が目の前にあった。

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