第49話 安西さんと夏休み

「明日からは夏休みになる。海や山に行く人もいるだろうが、危険な生物も多くいるからな。怪我のないよう、羽目を外し過ぎないように、楽しい夏休みを過ごすように。課題もちゃんと終わらせておくんだぞ」


 大量の課題が配られ、終業式と鷹先の長いHRが終わり、クラスメイトはグループで夏休みの予定を話し合っているようだった。

 隣にいる安西あんざいさんはやっぱり今日も寝ている。

 安西さんのところへ委員長たちが集まってくるのをみて、起こすのをやめると、前の席の立橋たてはし君は浮かない顔で声をかけてきた。


「……斉藤さいとう、夏休みって、なんで嬉しいはずなのに、こんなに辛くなるんだろうな」

「サッカー部は合宿するんだっけ」

「そうそう、8月のほとんどが山でトレーニング合宿。専門のコーチがいるらしくてさ。サッカー三昧で、もちろん嬉しいんだけど、高校最初の夏休みはもっとオフの日もあってよかったんじゃないのって思うんだよ」

「まぁ、それは運動部だから」

「そうだけどさ……」


 サッカー部のエースでも課題の山と長期の練習は流石に堪えるらしい。立橋君はそう言って、はぁと溜息を吐いた。


「斉藤は夏休み何するんだ? さぞかし楽しい夏休みでも送るんだろ?」


 立橋君が隣を見る。つられて隣を見ると、安西さんは委員長たちと夏休みに会う約束をしているようだった。


「違うからな?」


 最近、何故か立橋君に安西さんとの仲を疑われているが、そんなことはない。勉強会の予定を立てているくらいで、他の約束なんて何もしていない。会うとしても居酒屋のときだけだ。この関係もなんて呼べばいいか分からないし。それに――


「安西さんに負けたから、勉強だよ」

「ああ、そんなこともあったっけ」


 俺は期末考査で安西さんより点数が低かった。

 その差は数点。

 対策用のノートを渡して、一緒に勉強会をしていたとはいえ、抜かされるとは思っていなかったので、次こそは負けないように勉強はしておきたい。


 一位は誰かって?

 もちろん天江あまえだった。

 そんな天江は文芸部にでも行っているのだろう。教室にはいなかった。


「でも、他にもあるんだろ?」

「いや、ほんとに何もないって」


 ほんとに何もなく、バイトと勉強の合間にラノベを読もうとしていただけなんだけどな。

 そう思っていたんだけど――。


「斉藤くん、夏休みは空いている?」

「……空いてはいますけど、どうかしました」

「そうなの? よかったわ。じゃあ、斉藤くん、杏里と一緒に少しの間だけ、助っ人で海の家へ行ってきてくれるかしら」

「……え?」

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