第28話 絡まれる安西さん
休憩スペースまで聞こえてきた男性の大声に、俺はすぐ店内へと向かった。
「……」
店内に繋がるカーテンを抜ける。休憩前は、あんなに賑やかだった店内が、お客さんが帰られたと思ってしまうくらい静かになっていた。
どうしたんですか?と、近くにいたお客さんに聞ける雰囲気ではなく、俺は全員が注目しているその方向を向いた。
「安西さん?」
そこには安西さんがいた。男性は少し服が濡れている。もしかして――
「ごめんなさい! 気がつかなくて」
『気がつかなくても、くそもあるかよ。お気に入りの服汚しやがってよ。どうしてくれるんだよ』
「まぁまぁ、落ち着いてよ。相沢さん。
「そうだよ相沢さん。いくら不幸が続いたからって杏里ちゃんにまで当たらなくても」
『うるせぇ!』
前に安西さんが駅に送り届けていた吉岡さんたちも、男性を落ち着かせようとしているが、男性は怒りが膨らんでいく一方だった。
「ごめんなさい!」
安西さんがもう一度頭を下げる。しかし、男性は安西さんの謝罪を見ず、机に置かれていた灰皿を手に取った。
『ああ、もうお前が――』
「安西さん、危ない!」
男性が灰皿を振るおうとするのが見えて、俺は一歩踏み出し、安西さんの前に立った。灰皿は肩を軽くかすった程度。痛いとは感じなかった。
「お客様、こちらが致してしまったことについては、何度でも謝らせていただきます。もちろんクリーニング代をお出しします。でも――」
隣にいた安西さんは男性を見て、少し怯えていた。ここは、居酒屋だ。酔った客に絡まれることはあると思う。こういうことだって、日常的ではないにしろ、起こってしまうこともあるかもしれない。今回は安西さんの不注意。怒られるのは当然だ。でも。
「スタッフに手を出すのは止めていただけませんでしょうか?」
安西さんを傷つけられたりしたら、俺はお客さんでもこの人を許せなくなる。
『悪かったよ』
そう言って、男性は席に座り直した。
「お客様、お騒がせ致しました」
お客さんそれぞれに一例しながら、俺は休憩スペースに戻った。その途中、安西さんから告げられた言葉は耳に残ったままだった。
「ありがとう、
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