第26話 照れる安西さん
「……これ見てほしいんだけど」
遠足があった翌日。居酒屋のバイトが終わり、勉強会を始めようとしたところで、安西さんが声をかけてきた。机の上に広げて見せてきたのは追試の答案用紙。
「え? これほんと? おめでとう、安西さん!」
「うん、キミのおかげだよ!」
「いや、安西さんの実力だって」
「……そうかな? だけど、キミが勉強教えてくれなかったら、こんな点数とれなかったはずだから」
そう言いながらも、安西さんは照れたように微笑んでいた。
テストは点数を見なくてもバツの数を見ればすぐにわかる。そのテストは丸ばかりでバツなんて一つもない。つまりは満点だった。
追試は普通のテストより難しいと聞くけれど、安西さん頑張ったんだな。
「それでね、もし嫌だったらあれなんだけど」
「嫌なことなんてないと思うけど……なに?」
「あのさ、テストは終わったけど、勉強会続けてくれないかな?」
「へっ?」
突然の提案に思わず変な声が出てしまう。
確かに勉強会の期間はこれといって決めていなかったな。お手伝いとバイトの後に、いつも勉強会をしていたから、そんなこと気にしてはいなかったからかもしれないけれど。
「ごめん安西さん、俺、まだ勉強会って続くものだと思ってた」
「え、そうなの⁉」
「……うん。だから、もしよかったらだけど、続けてもいいかな?」
「もちろんだよ!」
「うん、よかった」
「ありがとう! じゃあ、今日も始めよっか」
安西さんが慌てながら教科書を机の上に出し始める。
俺も安西さんに教え続けられるように勉強頑張らないとな。
そう思い、鞄の中から教科書を出そうとしたら、
「だから言ったでしょ、
「この子ったらね、
「もう、お母さん!」
「そうなの?」
いじわるかもしれないが、ちょっと気になって聞いてみる。瞬間、安西さんの顔がぽっと赤くなった。
「違わなくはないんだけど、だけど!」
違わなくはないのか。
ちょっと怒った顔でこっちを見てくる安西さんを見ていると、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「ふたりとも照れないの。これ、作ったから食べて?」
そう言って、町さんが机の上に置いたのは、ショートケーキだった。
「え? いいの? こんなの食べて」
「いいに決まってるでしょ? テスト満点のご褒美よ」
「わぁい、いただきます!」
安西さんがショートケーキをフォークで小さめに切って食べ始める。その姿を横目に、俺もケーキを食べ始めることにした。
安西さんのこの笑顔を見られるなら、勉強会なんていつだって続けてみせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます