第17話 教えてもらう安西さん

『おっと、店員さん、この店のおすすめってどんなのだ?』

「おすすめですか? はい、このお店でおすすめなのは親子丼ですね! ふわとろの卵とモモ肉がジューシーで」


『お、前にもいたね、兄ちゃん。やっぱり、男前やなぁ。男前と言ったら儂も昔バリバリ働いとった頃、モテまくっとってな――』

「………………ありがとうございます――」


『おろろろろ、おろろろろ~』

「おろろろろ、おろろろろ~。……あ、やばい」


『いらっしゃいませ、ありがとうございます~』

「ありがとうございます~」


「って、安西さんに勉強教えるって話じゃなかったの!?」


閉店後すぐ、机に突っ伏した俺は、疲れて声も出せず静かに叫んでいた。


安西さんに勉強を教えてほしいと頼まれ、連れていかれた場所はもちろん安西さんの家。


開店まで勉強を教える。その予定だったが、お客さんが並んでいて開店が早まってしまった。

安西さんから「待ってて」と言われたけど、さすがにあの状況。見るに見かねて、また手伝っていたのだ。


そもそも安西さんは学校では寝てるからできないよな。放課後は今日みたいにお店の手伝いがあるし。一緒に勉強する時間がとりづらいって、何で気づかなかったんだろう。


「お疲れ様。ごめんね、また手伝わせちゃって」


「どうぞ」と言って、安西さんは机の上に麦茶を置いてくれた。


「……だいじょうぶ。だけど、やっぱり疲れるね。ぷぁっ!」


疲れた時に飲むお茶はやっぱりいいな。疲れが吹っ飛ぶ気がする。


「……えっと、それで安西さん、勉強のことだけど、どこがわからなかったの?」


麦茶をのみ干し、空になったコップを眺めた俺は、本題を切り出すことにした。


「……言いづらいんだけど、全部、なんだ」

「全部⁉ でも数点は取れてるよね」


 もう一度、答案用紙を見せてもらう。点数は何度みても39点で、全部というほど間違っても――。


「あ、そういうことか」


答案用紙を遠目でみたら、すぐに原因が分かった。

 安西さんの答案用紙は設問1の英単語の部分とアクセント問題が○をつけられていて、他の文章問題や自由英文はチェックが打たれていたのだ。つまりは――。


「安西さん、暗記は得意だけど英文は苦手? 単語と意味は分かるけど文章にしたら分からなくなるとか」

「そう、そうなんだよ! すごいね、どうして分かったの?」

「どうしてっていうか……」


英語が苦手な人あるあるだと思うんだけどな。


けど、どうするべきだろう。教えるにしても文法を教えていくってことになる。そもそも、どこまで英語ができるか分かんない。……こうなったらひとまず、これから質問してみるか。


「安西さん、まず質問だけど、be動詞って分かるよね?」


中学生でも習ってるはず、これくらいは――。


「わからない!」


あれ?

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