第9話 お休み中な安西さん
「……はぁ、
いつも学校にきたら、安西さんは寝ている。机に突っ伏して、窓辺に射す光に当たりながら、こっちを向いてぐっすりと。だけど、今日はそんな触りたくなるような可愛らしい寝顔は見られなかった。
ゴールデンウィークだったし、お客さんが多かったとかなんだろうか。平日であれだけのお客さんだったんだ、連休となれば忙しくもなって疲れがたまってくる。それに今週は定期考査。手伝いで時間がとれない中、勉強もやっていただろうし。今日見舞いにでも行ってこようかな。
「よ~しき、どうしたの? そんな顔して」
「いや、なんでも」
昼休み、焼きそばパンを食べながら、安西さんのことを考えていた俺の隣にやって来たのはクラスメイトであり、幼馴染の
「ふ~ん」
何か言いたそうな目でじっとこっちを見てくる。
あんまり安西さんのことはこいつに話したくないんだよな。変な勘違いをされて、『騎士ちゃん』や『天使様』みたいなのをつけられたら困る。誰が呼び出したか、と物語だったらそう語られるであろう称号をほとんど天江が付けているのだから驚きだ。安西さんの『眠り姫』も天江がつけてたはずだし。
「……俺のところにくるなんて珍しいな。いつもは文芸部のやつらと一緒に食べてるだろ?」
「ちょっとね。部活でトラブっちゃって。今は避難中」
「そうかよ」
その避難中が週一で開催されるのはどうかと思うけど。
「そういえばさ、今日『眠り姫』休みなんだよね」
堂々と安西さんの席を占領する天江が机をポンポンと叩く。
「……そうだな」
「残念だね~
「そうだ、………いや別に」
危ない。そのまま返事をするところだった。
「いや、何のことだか」
「へ~そんな嘘つくんだ、芳樹らしくない。知ってる? 男子達みんな芳樹のこと羨ましがってるんだよ?」
「…………」
「あれ、知らない? 『眠り姫』、結構モテるんだよ? いつも寝てるから、告白されたことはないらしいんだけど」
もちろん知ってるに決まってる。安西さんのことを扉越しに見に来る生徒がいるくらいだ。それに、隣で何度も寝顔を見てる。可愛い女の子の寝顔を見せられてドキッとしない男なんていない。そんな寝顔を実質一人占めできてしまっているんだ。安西さんを好きな子からすれば羨ましいと思われるのは間違いないだろう。
「そんな安西さんがいないって分かったら、芳樹はいつもの癖で突っ込んでいくんだろうなって、思ってたんだけど、そうでもない感じ?」
「その質問に俺が答えると思ってるのか?」
「い~や、べ~つに」
そう言って、天江はクスクスと笑いだした。
もうきっと俺たちの関係に何か気付いてるんだろう。
まぁ、そんなに安西さんのことを知っているわけではないけれど。
「もしかして、それを言いにきたのか?」
「そ、過剰なお節介は止めときなよっていう忠告。芳樹に何かあったら嫌だからね~私も。あ、勘違いしないでね。幼馴染としてだから」
そう言って、天江は自分の席に戻っていった。
「分かってるよ」
俺ができることは、ただ今日の授業のノートを見せてあげるくらいだ。それくらいなら、大丈夫だよな。
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