第10話 風邪を引いた安西さん
学校から帰宅し私服に着替えた俺は、スポーツドリンクと冷蔵庫に入っていた蜜柑ゼリーを手に、安西さんの家に向かった。
「……ここら辺だったよな」
お店の名前を確認していなかったので、マップを頼りに進んでいたが、それっぽい建物は見つからない。
夕方のこの時間ということもあり、今日も学生やスーツを着た社会人が溢れていた。
「誰かに聞いた方がいいかな」
前回行ったときには、十数人のお客さんがいた。人気のお店だろうから、誰かに話しかけたら見つかるかもしれない。
いや、でも知らなかったりしたら迷惑だよな。すれ違っていく人たちは誰かと話しながら歩いている。それを止めてまで話すのは何か悪い気がした。
安西さんにお店の名前をきいておくべきだった――って、
「
数分駅の近くをうろうろしていた俺は、安西さんに似た女性がお店のシャッターを下ろそうとしている後ろ姿を見て声をかけていた。
「あら、斉藤くん」
シャッターを下ろし終えた女性が振り返る。
やっぱり安西さんのお母さんだ。
「あら、まぁ、
そう言って、町さんはシャッターに鍵をかけ、中央に休業の紙をはった。
「何かあったんですか?」
「
娘に頼りすぎてるわね、と笑いながらも、表情は少しだけ曇っていた。
前回手伝ったときは安西さんと町さんがいただけで、バイトの人はいなかった。もしかしたらいるかもしれないが、休業ってことは、今日はそういうことなのだろう。
「安西さんやっぱり風邪だったんですね。えっとこれ、良かったら安西さんに。スポーツドリンクと親戚から貰った蜜柑ゼリーなんですけど」
コンビニ袋に入ったお見舞いセットを町さんに渡した。
伝えてはいないが、袋の中には今日の授業の内容が書かれたノートも入っている。
「あら、杏里のお見舞いに来てくれたの? ありがとう、杏里も喜ぶと思うわ」
「いえ、そんなことは」
「そんな謙遜しなくていいわよ」
「当たり前のことをしただけですし」
早く風邪が治って欲しいだけなんだけどな。学校では寝てるだけなんだけど。
「では、今日はこれで――」
安西さんの体調が気になるが、天江にも過度なお節介はするなといわれているからな。今日は帰った方がいいだろう。
俺はそう言って、後ろを向いて駅の方へ行こうとした。
「そうだ、斉藤くん。杏里のこと見に行ってくれないかしら」
いきなりのことすぎて混乱する。
それって安西さんに迷惑だよな。
「それは迷惑じじゃ――」
「おねがいね!」
それはいけないことなのでは?
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