第2話 安西さんが起きている?

寝ていた安西さんを起こすこと五回。ホームルームが終わり、隣でお休み中の安西さんを気に掛けながら、俺は教室を去った。校門を出て、電車とバスを乗り継ぎ向かった先は、大手アニメショップ。


発売日に買うのが基本。

二日目に行って置いていなかった絶望感を一度味わい、謎の格言を信じている俺は、新刊コーナーへと足を向けていた。


明後日からゴールデンウィーク。休みの日にできるだけ積読を減らしておきたいが、新刊は買っておきたい。


「よし、あった」


 黄色いSの模様の入ったとある文庫の本を手に取ってレジへ向かう。

 平日の夕方なこともあってレジは少しだけ混雑していたが、思ったよりも早く買うことができた。


「さ、今日も読むぞ!」


 重くなった鞄を手に、俺は家へと帰ろうとした。


「あ、そういえばシャー芯なかったんだった」


 予備を買おうとしていたことを忘れていた。

 ついでだし買いに行こうかな。


 そう思い、コンビニへ向かおうとした時、俺の視線はある方向に吸い寄せられた。


「安西さん?」


 横道から安西さんが現れたのだ。

 起きてるところ久しぶりに見たな。ずっと寝ている安西さんだけど、学校には歩いてきている。入学式のあの時だって――


「いやぁ、杏里ちゃん、よかったよ」

「そうだ、そうだ~」

「ありがとうございます」


 嘘だろ。あの噂って本当だったのか?

 いつも寝ている安西さんは夜に何かしているという噂が飛び交っている。その中でも男子生徒で有力視されているのが――


「パパ活」


 安西さんの後ろには酔っぱらった二人のおじさんがいた。

 べろべろに酔っぱらっているのか足取りは朧気で、フラフラしている。


「少しついていってみるか」


 勘違いかもしれない。

 とりあえず俺は、安西さんにバレないよう物陰に隠れながら、安西さんを尾行することにした。


「杏里ちゃん、この後どうよ」

「そうだ、杏里ちゃん。おじさんたちがどーんと」

「いえ、大丈夫ですから」

「そういわずに」

「そうだぞ~」

「……ちょっと」


 駅前に着いた安西さんは、おじさんたちに体をベタベタと触られていた。


「このままじゃまずいよな」


 安西さんの噂がまだ本当かは分からない。それで生活してるかもしれない。お節介と言われるかもしれない。それでもさすがにこの状況は放っておけない。


「安西さんから離れてください」


 俺はおじさんと安西さんの間に割って入っていた。

 これでどうだ。

 安西さんは助かって――


「ねぇ、杏里ちゃん、この男の子は知り合いかい?」

「もしかして、杏里ちゃんの――」

「吉岡さん、違いますから。この子はただのクラスメイトで」

「いやぁ、そうか、そうか」


 あれ? どうしてこんな空気になってるんだ? 安西さんは触られて困ってるはずじゃ――


「いや、君もカッコいいよ」

「え?」


 安西さんに吉岡さんと呼ばれていたおじさんに肩を叩かれた。


「そうだぞ、おじさんたちこんなに酔って、杏里ちゃんに駅まで送ってもらってるのにな、がはは」


 高笑いするおじさんたちに絡まれながら、俺は安西さんの方を向く。

 安西さんはぎこちない笑みを浮かべていた。


「もしかしてだけど、安西さん、ただ酔っぱらってた人を介抱していただけってことであってる?」


 寝ていたときの穏やかな表情とは違う、ひきつった表情で安西さんは答えた。


「この人たち、実家の常連さんだから」

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