第3話 働き者な安西さん

おじさんたちを駅へ送り届け、安西さんに連れてこられたのは駅近くにある居酒屋だった。居酒屋と大きく書かれた提灯と、青の暖簾が目立つ。代々引き継がれてきたのだろう。木でできた壁がところどころはげていた。


「ああもう、お客さんこんなにいる!」


 夕方のこの時間だからだろう。お店の前には社会人と思われるスーツを着た人たちが十人以上並んでいた。


「安西さんはここで働いてるの?」

「働いてるっていうか、手伝ってるだけなんだけどね。いつものことだよ」


 だからいつも授業中に寝てるのか。なんとなくバイトをしているかもとは思っていたが、居酒屋だったなんて予想以上だった。


「駅の近くでこれだけの人気な店ってことだもんな」

「……そうなんだよね(チラチラ)」


 さっきから何故か安西さんが店の方と俺を交互に見てくる。

 お店が忙しいんだ。早く戻らなきゃいけないよな。


「安西さん、今日は悪かった。おじさんたちが常連さんだってこと知らなくてさ。危ないと思っただけなんだ」

「……それはいいんだけど(チラチラ)」

「もう帰るからさ。明日も――」


 そう言って帰ろうとした時、安西さんに肩を掴まれた。


「ねぇ、ちょっとこれから時間ある?」

「時間?」

「みて分かるでしょ? お客さんがいっぱいなの! 私とお母さんじゃ絶対に回んない! 力貸して!」

「……いや、あの」


 手伝うのはいいけどこの時間だしな。母さんたちはめったに帰ってこないからいいけど、明日も学校だから早めに宿題を終わらせて寝たい。

 ただなぁ。安西さんがずっとこっちを見てくるんだよな。


「お願い! 今日だけだから!」


 本当に人手が足りないんだろう、安西さんが頭を下げてくる。いつも授業中寝てるくらいだしな。俺が手伝えば少しは楽になるのか。

 ああもう、どうして俺はこういうとき助けたいと思っちゃうんだろう。


「俺バイトなんてしたことないぞ?」

「全然、大丈夫! 片付けとか注文は私とお母さんがやるから! キミはお客さんのところへ料理を持ってってくれればOK!」


 それだったら何とかなるのか? やってみないことには分からないが、少しでも力になれるなら手伝ってはあげたい。

 これで少しは明日、起きててくれるだろうしな。あの寝顔を見れなくなるのはちょっと残念だけど。


「今日だけだったら」

「ありがとう! じゃあ急がなきゃね。お客さんが待ってるから!」


 そして俺は安西さんに連れられ、お店に入った。これからどれだけ大変なことが待ってるかも知らずに。

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