第24話 大和

「爆音です」

「敵機の編隊近づきます」

「急速潜航、潜望鏡深度」

 編隊となれば呂号ごときを相手にはしないだろうという思いがある。


 艦載機による戦爆連合の大編隊だった。このコースならば佐世保を空襲、磯垣はそう判断した。

 先日の呉と同じことをやろうというに違いなかった。

 すでにわが軍の電探網にかかっているはずだが、やはり一報はいれねばならんと判断した。


「空中線露頂深度まで浮上」

「通信士、佐世鎮あて電報。敵艦載機による戦爆連合編隊、北上中。位置……」

「艦長、呉からです。読みます。呂号第五〇四潜は第二艦隊の防空援護にあたれ」

「第二艦隊だと、大和か。この先に大和がいるのか」

 敵が大編隊を繰り出してきた理由が磯垣には理解できた。

「達する、全士官は発令所まで」


「行き先はどこだと思うか」

 磯垣は全員を均等に眺めると問うた。

「おそらくは沖縄特攻」

 全員が頷いた。


「本艦にはもう魚雷はない、できることは浮上し機関砲による対空射撃のみだ。

 おそらくそれもすぐ弾切れになる。何ほどのことができるかはわからんが、やれるだけのことはやろう、敵機を一機でも多く道連れにする。以上だ。別れ」


「浮上する、メインタンクブロー」

 そもそも磯垣たちには、第二艦隊が今どこにいるのかすらわかっていないのだ。

 当然無線封鎖をしているはずの艦隊に、今どこにいますかと聞くわけにもいかない。

 ここは敵機に案内してもらうしかなさそうだった。


「対空戦闘用意」

 一機でもこちらに絡んでくれれば、その分第二艦隊に行く敵機が減る。

 こちらの目論見は全くはずれ、敵編隊は遥か高空を通り過ぎた行く。

『大和』沈める、そう意気込んでいるはずの敵パイロットたちが、ちっぽけな呂号潜水艦など相手にするはずがなかった。


 せいぜい戦闘機ぐらいが、行きがけの駄賃で相手になるかとも思ったが、それもなかった。

 敵機が高度を下げてくれなければ、こちらからは何もできない。艦載機関砲は高射砲ではない。

 戦場へ、どうせ行くならば役に立たねば意味がない。気持ちは逸るが船速は上がらない。


 遠くで砲声が響いた。戦艦主砲の音だ。まだ距離はあるに違いないのに腹に響く。

 敵機が煙を吐いて落ちてい。

 大和の主砲から打ち出された『三式弾』はある意味無敵だ。

 四十六センチ砲からばらまかれる散弾、自分は敵のパイロットでなくてよかったと心底思う。


「敵機きます」

 やっと相手をしてくれるらしい、連装機関砲が曳光弾を打ち上げる。

 護衛戦闘機が暇を持て余したようだった。

 第二艦隊に援護の航空機は付かなかったのか? それは無茶というものだろう。いかに大和と言っても航空援助がなければその戦いは厳しいものになる。

 上層部は、レイテで武蔵が沈められたことを忘れたのだろうか。

 そうではないのか、事態はもっと悪いのかもしれない。戦えるパイロット、さらには機体がないという可能性に磯垣は気が付いた。


 歴戦のパイロットがいる部隊の戦闘機は局地戦闘機だ。遥か洋上への護衛には無理があるのかもしれなかった。







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