第23話 運命は

 英空母インドミタブルを他を中核とした機動部隊だった。

 沖縄にいる米機動部隊と合流させるわけには、行かない奴らだ。

 魚雷は一斉射分しかなかった。

「英機動部隊に攻撃を仕掛ける、場合によればこれが最後になるかもしれない。短い付き合い、つたない指揮官だったが諸君の健闘に感謝する。魚雷戦用意」


 夢が正夢であれば雷撃後、駆逐艦に撃沈されることになる。その確率が高いことは夢のお告げを信じるまでもなく明白だった。

 幸いにも、また敵艦にこちらは捕捉されていないようだ。


 航走距離の長い我々の酸素魚雷になれていないのかもしれない。

「目標方位、三三五。距離五千」

「一番から四番発射用意」

「発射用意よし」

「てーっ」

 圧搾空気の音。


「急速潜航、深度九〇」

 黙って沈められるわけにはいかない、魚雷はあと二本ある。

「後部発射管発射用意」

 追撃されればくらわすつもりだ。


 爆発音と、振動。

「命中です」

「機関停止、爆雷戦防御」

 あとは我慢比べだ。運があれば生還できる。


「敵爆雷着水音、離れています」

 距離を見間違えているというより、自分たちを見失っていると磯垣は判断した。

「我慢比べだな」

「駆逐艦頭上を航行していきます」

 確実に見失っているようだ。


 無言の時間が過ぎていく、潜水艦乗りはこの沈黙に耐えるのも任務の内だ。

「敵機動部隊異動、違います回避運動をしています」

 爆発音が聞こえた。

「攻撃を受けているようです」


 攻撃? いまさらながら気が付いた、我が偵察機は、やつらを発見しているのだ、当然攻撃するはずだった。

「潜望鏡深度」

 友軍が敵機動部隊を攻撃していた。ついていると磯垣は判断した。今ならば追撃中の駆逐艦を沈めることができるかもしれない。


「後部発射管準備は」

「完了しています」

 偶然にも、敵艦は後方のいい位置にいた。

 この場合のいい位置というのは、発射点に自分たちがいるということだ。


「後部発射管、全門発射」

 戦果を確認したいが、それは危険すぎる。どのみち再攻撃できる魚雷はない。

 命中すれば、逃げる時間を稼ぐことができる。

「前進全速」


 この位置で英機動部隊と遭遇したということは、台湾方面へ向かうことはかなりの危険を伴う可能性が出てきた。

 袋のネズミになる前に沖縄を迂回し、佐世保ないしは呉に向かうことを磯垣は決めた。


 燃料は足りるはずだ。問題は敵と出会った時だが、逃げ切れないとなれば、浮上し砲戦を挑むしかなかった。

 取りあえず追撃はない、先ほど命中音を聞いたが、少なくとも駆逐艦を動けなくしたようだ。


 情報を検討したところ、東シナ海方面には敵はいない。呂号第五〇四潜の将校はそうは結論を出した。

 ちなみに将校とは機関科を含む兵科士官のことである。つまり主計士と軍医は将校とは呼ばれない。


「佐世保入港は四月八日辺りになると思われます」

 チャートにコースを入れた、航海士が報告した。

 この予定を司令部にいれておけば、その先の予定は変わったかもしれない。








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