第22話 英国機動部隊
しかし覚悟していた爆雷攻撃は、いつまで待っても行われることはなかった。
潜望鏡の中に映った物は空母群だった。軍艦旗はホワイトエンスン、英国海軍だ。とうとう太平洋に出てきたということか、欧州の戦争は終わりが見えたということか。イタリアに続きドイツがということになると、いよいよ帝国一国で連合軍と闘うことになる。
「魚雷戦用意」
この状態で雷撃を実施した場合、間違いなく呂号第五〇四潜は撃沈されるだろう、しかしそれは仕方がないことだった。
「方位一八五、距離三千」
「一番、二番発射」
「駆逐艦きます」
「急速潜航」
「爆雷着水音」
「爆雷防御」
艦尾に衝撃音と同時に爆発音、ほんのわずかな間隔を置いて周囲から猛烈な衝撃が来た。
「わっ」
足元が崩れ、思わず叫び声が出た、途端に目が覚めた。
軽く横になったつもりが、寝てしまったらしい。
しかし夢の内容は、生々しすぎた。まともに魚雷戦を挑むということを、いさめているような夢だ。
と言って駆逐艦を恐れていては戦にはならない。結局のところ火事場泥棒的にどさくさに紛れて雷撃、という情けない戦い方をするしかないのだ、情けない話だが、蛮勇で部下の命を危険にさらすわけにはいかない。
「敵機動部隊発見、スクリュー音が輻輳しています、大部隊です」
磯垣が発令所に戻るなり、ソナーマンから報告があった。
遠くに爆発音が連続している、艦砲射撃の音が伝わってきているのだ。どれほどの数か。
「潜望鏡深度まで浮上」
潜望鏡の中一面に敵艦がいた。それは今まで見たことのないものだった。
それらのいたるところから、砲弾が打ち出されていた。
同時に空中に広がる弾幕煙、海面に激突する友軍機が見えた。
「航海長、代れ」
「水雷長、魚雷の残は」
「二斉射はできます」
「艦長、攻撃しましょう」
「私も同意見です、今なら敵さんは艦砲射撃と特攻機に気をとられています」
航海長に変わり潜望鏡をのぞいた水雷長が進言した。
「魚雷戦用意」
目標はどれでもよかった、とりあえず斉射すればどれかには命中しそうな気がする。
もっとも実際はそれほど簡単ではない。一番手早く発射点につけそうな、戦艦を目標とすることに磯垣は決めた。
「針路一九五、前進微速」
「一番から四番まで十秒間隔で発射」
「急速潜航、針路九〇、両舷半速」
爆発音が二回、おそらく命中した。駆逐艦が来るはずだ。
五分が過ぎ十分が過ぎても予想に反して駆逐艦は追ってこなかった。
海面から聞こえる音は相変わらずだ、明らかに呂号第五〇四潜は捕捉されていない。
となれば、再攻撃をかけるべきだろう。
「再攻撃をかける、潜望鏡深度まで浮上」
幸運なことに、空母に対する発射点が間近だった。というよりも周囲は敵艦だらけなのだ。
「一番から四番発射用意」
「発射用意よし」
「斉射、てーつ」
「急速潜航、針路二二五」
撃沈の確認するつもりはない、あとはさっさと逃げる。行先は先島諸島だ。そちらで補給ができなければ、沖縄を迂回し佐世保に向かうつもりでいた。
那覇から八十マイルほどの位置で磯垣は浮上を令した。艦内の空気が限界に近いことと蓄電池の容量の問題だった。
「友軍偵察機の無電を傍受、英海軍機動部隊を発見、位置東経……」
磯垣はまさかと思った、夢が正夢になったからだ。
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