第21話 沖縄へ
敵機動部隊を追いかけるには、呂号第五〇四潜の速力では無理があった。
しかしながら、搭載魚雷はまだ半分以上が残っていたこともあって、磯垣は基地帰投より沖縄方面に向かうことを決めた。
元々小笠原方面へ針路をとるつもりだったが、司令部から沖縄に向かうよう指示されたのだ。
回天を搭載した伊号潜が出撃したことも同時に知らされた。
回天か、確かに人が操縦すればあたるような気もするが、結局潜望鏡を下ろしてから突入までは計算値だ。自分で潜望鏡をのぞき、速力を計算し距離を測り。情けないが自分にはできるとは思えない。
しかもまだ敵艦を沈めることができればいいが、外れても生還は望めないとなれば、当初軍令部長をはじめ首脳部が反対したのは、当然のような気がする。しかし戦況はそんな反対意見を述べられる状況を超えている。
そもそも、磯垣が率いるこの呂号第五〇四潜にしても、生還のあてはないのだ。特攻とどれほど違うか自分でもわからない。
「潜航しても同じだろう、ぎりぎりまでは、極力浮上航行で行く、総員で見張りだな」
結局のところ生きるか死ぬかは運でしかない、助かるときは助かるのだ。
「爆音、友軍機です」
「銀河隊です」
「信号兵、発光信号を、『ご武運を祈る』」
先頭の銀河が翼を振った。
「手空き総員甲板、帽触れ」
いよいよ戦場が近づいている。
「艦長から達する、本艦はこれより沖縄近海に展開する敵機動部隊に肉薄雷撃を実施する。もとより生還は望むべくもないが、諸君を犬死させるつもりもない。総員全力を尽くし戦果及び生還を期せ」
「航海長、水雷長、機関長は発令所へ」
「今回も航空特攻が行われるはずだ、そこで、言い方は悪いがどさくさにまぎれて雷撃を実行しようと思う」
磯垣は攻撃の方針を伝えることでより俊敏な行動を図ることにしたのだ。
「厄介なのは、あのヘッジホッグとか言う新兵器だが」
「ただ、当たらない限りは爆発しないとか」
「それと、不発がそこそこあるとか」
その話は聞いていた。そもそもヘッジホッグについての詳細が分かったのは、今、磯垣たちの後方を航行しているであろう、伊号第五十六潜の飛行機格納庫に、不発弾体が刺さっていたからなのだ。
もっともそれも運であって、呂号第五〇四潜の大きさでも、複数の弾体が命中する可能性もある。呂号第五〇四潜はもともとの設計はドイツのUボートだ。その本家もかなりの数がヘッジホッグにより撃沈されていると聞く。
ただ、それをあえて口にするほど、磯垣は馬鹿ではない。
「潜航が増えることが予想される、蓄電池を酷使することになると思う。保守をよろしく頼みます」
磯垣は機関長に頭を下げた。
「了解しました、全力を尽くします」
「あと半日ぐらいか各科各員できる限りの休養をとれるように配慮してくれ。以上解散」
磯垣も自室に戻るとベッドに寝転んだ。
「艦長、船団です、スクリュー音、大型艦です」
磯垣は飛び起きた、こちらが探知したということは向こうも探知している可能性があった。
「急速潜航、深度五〇」
早すぎる、敵機動部隊は遥か先にいるはずだった。
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