第18話 呂号第五〇四潜水艦
鎮守府司令部で磯垣を待っていたのは、新たな辞令であった。
『呂号第五〇四潜水艦艦長を命ず』
潜水艦基地隊出頭を命じられ、そこで受け取った辞令がそれだった。
「五〇四潜ですか」
聞いた覚えがなかった。以前は二けたの艦船番号が三桁に立ったものがあるのは知っていた。伊号五十八潜が伊号百五十八潜になった、などである。また伊号四百潜の系統が、航空機を搭載したものであることも当然知っている。
だが呂号で五百番台とは、突然思い立った。
「ドイツからの」
「そうだ、Uボートだ、だが譲渡艦ではなく我が国で建造されたものだ」
計画があったとは小耳にはさんでいたが、伊号や波号建造を優先させたはずだった。
「ドックに建造途中のものがあって、それを急遽完成させた、はっきり言って予定通りの性能が出るかはわからない。だからこそ君に白羽の矢が立ったのだ」
つまりは技量を認められたということらしい、しかし、若干複雑な気分もある。
「完熟訓練は半月、期待しているぞ」
敬礼をして、辞そうとしたときに思い出したように声がかかった。
「二隻同じ艦番号の船が並んでいる、大きさも似たようなものだが、もう一隻は伊号だ。イタリアからの接取艦だが、そちらの方がよかったかね」
軍港の隅に二隻の潜水艦が並んで艦尾で係留されていた。
連絡が言っていたのだろう、舷門に乗組員が整列していた。
「気を付け」
当直士官の号令がかかる。
「艦長にかしら―右」
磯垣は少佐にもなって、こういう式典があまり得意ではない。
答礼、艦尾の軍艦旗に敬礼の後、乗艦。すべて形式どおりだ。まあ逆にそれに乗ればすべて終わるというのは楽ではある。
甲板に一人の大尉が待っていた、どこかで見た覚えがある。
「お持ちしておりました艦長、航海長兼水雷長、野島大尉です」
「野島? 確か兵学校で」
「覚えていただいていましたか、光栄です。二期下です」
同じ部屋になったことはないが顔ぐらいは覚えがある。
「サロンで、各科長がお待ちしております」
国民には敵性語云々と騒いでいながら、海軍では依然英語が普通に使われている。だいたい兵学校でもいまだに英語の授業がある。
「艦長を拝命しました磯垣です。よろしくお願いします」
士官は砲術、水雷を兼ねた航海科、機関科、医務科、主計科、通信科、であるがその中で長がいるのは航海と機関のみ。
士官が一人配置は医務、主計、通信だ。ぎりぎりの人数で回すとなるとやはりチームワークが大事ということになる。
「機関長、本艦の主機、補機はいかがですか」
「当初はMANで設計したものを使う予定だったそうですが、製造が追いつかず艦本式二十二号を積んでいます。慣れた信頼のおけるエンジンですので、どんな運用にもお答えできます」
「わかりました、よろしくお願いします」
「主計士はお得意は」
「あえて言えば、カレーとコロッケですね。缶詰でもご満足いただけるものをつくる自信はあります」
呂号の主計士は大型艦と異なり、特務士官が多い。彼もコックだろう。
些細な会話が狭い艦では必要だ。なんといっても運命共同体である。
「本日より二週間で、この艦を自分の手足同様に動かせるようにします。気になることがあれば何でも言ってください、全員で解決することにします」
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