第4話 哨戒

 磯垣が着任直前に、第四艦隊はその哨戒区域を変更することになった。新たに第八艦隊が編成されたためだった。

 広大な、南洋海域を一個の艦隊のみで担当するのは、どうかということになったらしい。

 それに伴い、ガダルカナルにおける飛行場設置の担当も八艦隊に移った。


 今まで第四艦隊に編成されていた呂三十三、三十四号潜水艦は第八艦隊に移り、その穴埋めという形で磯垣が舞鶴から配属替えになったのだ。

 磯垣の担当は当然内南洋ということになった。が、ニューギニアとソロモン諸島は第八艦隊の担当というだけで、明確な区割りは示されていない。


 二日の休みの後、呂第三十二潜は通常の哨戒任務に出た。磯垣は先日のカタリナ飛行艇がどうしても気になっていた。

 第四艦隊の上層部は、米軍が島伝いにに上がってくるとは思っていなかった。軍令部としても米豪の連帯を切り豪州を孤立させることに主眼を置いていた。そのためか潜水隊においても緊迫感がない。


 海域としては完全に八艦隊の担当区域だ、まあ、命令違反に問われることはないだろうと思う。

「潜航用意」

 先日カタリナに遭遇した地域が近づき、磯垣は安全策をとった。

 しかし完全に潜ったわけではないく、シュノーケル深度をとった。呂三十二潜はそのディーゼル機関が小さいこともあって、試験的にシュノーケルが装備されていた。


 艦内に外気が取り入れられるわけではないが、蓄電池を消耗しなくていいのはありがたかった。

「潜望鏡上げ」

 上空の音はソナーでは聞こえない、潜望鏡による上空監視は欠かせない。

「ん」

 水平線上に煙が幾筋も見えた。

「航海長かわれ」

 磯垣は潜望鏡を譲った。

「これは」


「艦長、船団のエンジン音が」

 ソナーマンが叫ぶ。


「シュノーケル運転中止、モーターに切り替える」

「両舷半速」

「艦長、輸送船団ではありません」

 航海長から潜望鏡をかわった磯垣は一瞬身震いをした。闘志か恐れかは自分でもわからない。


 潜望鏡の中は、巡洋艦と駆逐艦で占められている。さらに兵員輸送船。

 何だこれは、という思いがあった。

 哨戒任務から言えば速やかに回避、司令部に打電が基本のはずだ。

「各科長は、発令所集合」


「どうする、君たちの意見を聞きたい」

「会敵必戦ですかね」

 機関長があきらめにも似た表情で言う。

 兵科士官との対抗心もある、機関士官としてはなおさらに引くとは言いづらいだろう。


「魚雷戦用意、一番から四番まで発射用意」

「距離一万二千、方位さん、よん、まる」


 突然船体が揺れ、機雷の破裂音が響いた。

「駆逐艦、距離約五千」

「急速潜航、爆雷戦用意」


 再び衝撃があり照明が消えた。

「予備電源に切り替え、電球交換」

 機関長の指示が飛んだ。

 馬鹿な、駆逐艦までまだ距離があったはずだ。


「ヘッジホッグかもしれません」

 軍医が言った。彼は医者でありながら、兵器の情報を収集している。磯垣たち将校と違い、戦闘行動中においても特段やることはない、その間に集めた書籍を読み漁っていた。


「ヘッジホッグ? なんですかそれ」

「イギリス海軍が開発した対潜兵器です、まあ、迫撃砲みたいなもので、距離のある所に複数の弾頭を投下できます」


「そいつは厄介だな」

「機関停止」

「駆逐艦きます」


 これから本番か、ソナーの探知能力は敵さんの方がいいらしい。










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