第122話 インプレ記事

 「今日はYA-1で横浜経由でここまで来たんだよね?すごいなぁ。」


 編集部員は何故か綾の今日の行程を知っていた。おそらく陽子さんから話が伝わってるのだろう。編集部員は早速、綾にYA-1のインプレを聞き出そうとした。新製品で尚且つ、珍しい女性ライダーというからには記事になるとのことだった。なるほど、そういうことだったわけだ。綾は包み隠さずとは言わないが、この時代のオートバイとしては公道を走ってる限り、パワー不足で辛いといった感じは全くなく、かといって令和のオートバイと比較すれば煙はもうもう吐くし、2ストロークオイルを混合しなければならない手間などを考えると決して評価が高いわけではないが、それは時代の進化の差であるので、あくまでも昭和30年の他の車両を見て考えると、やはり赤とんぼと呼ばれるだけあって、独特のカラーに必要最低限の装備で軽やかとかそんな感じで当たり障りのないコメントをしておいた。木造社屋の前に止めてあったYA-1の前で写真を撮るとのことで、一緒に写したいとのことだ。まぁ、専門誌に自分の写真が写るくらいなら特に問題はなかろう。さらに当時フルカラー写真をインプレコーナーくらいで使うことはないし、印刷技術も低いことを考えるとぼやっとした写り程度なら問題はないだろう。ということで応じてみた。今時なら、レフ版持ちや、プロカメラマンが機材をたんまり持ってきて撮影。となるだろうけど、この時代はカメラがあること自体で既に珍しいと言ってもいいので、非常に簡素な撮影で終わった。


 「やぁ、陽子さんからの紹介でそんな子がいるのか?と思ったけど、本当にいるんだな。」


 と、編集部員が独り言のように言いながら、次の発売号で記事にするとのこと。連絡先は陽子さんから聞いているから献本もそっちに送るとのことだったが、人気があったら次回以降もインプレをしてほしい。ということになった。しかし、次回に自分がこの時代に来れるのか?という疑問はあったが、陽子さんからの紹介ということは次回もあればきっと呼ばれることになるのだろうな。と、思った。


 それにしても皇居の一角に出版社が存在するとは思わなかったし、省庁の分室みたいなものもこの古びた木造社屋に入ってるとは思わなかったが、冷静に考えると世界大戦に敗戦してからわずか10年。と考えると逆に10年でここまで東京は復興したんだと思うと、昭和の人々のエネルギッシュさを改めて思い知らされるものだ。令和に世界大戦があってもし、東京が荒廃したら同じように東京はまた立ち上がる力をもっているのだろうか?などと、考えながら編集部を後にして、千葉に戻ることにするが、まだ日は長いのでもうちょっと東京を見ながら戻ろうと、サーモボトルに残ってる少ないコーヒーをカップに注いで、飲みながらグーグルマップとネット検索で見どころを探してみることにした。


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