第121話 千代田区代官町は北の丸公園

 今日の最終目的地の東京都千代田区代官町。ここもその名が消えた町名だ。今は千代田区北の丸公園となっている。北の丸公園というと今では日本武道館が建っているがこの昭和30年に日本武道館はまだ建っていない。日本武道館も東京オリンピックの遺産の一つだ。やはり昭和39年の東京オリンピックは東京の街を大きく変えた起爆剤であり、好景気をもたらしたイベントで有った。尤も、今のコンプラでは許されないような突貫工事だらけだったので、そのツケが令和になって結構のしかかってるわけだが、右肩上がりの時代というのは人の目を盲目にさせるものである。令和の東京オリンピックは正直そんな効果も無く、無観客のまま滞りなく終わって印象が薄いイベントであった。


 都心に入って渋谷までの喧噪から一気により空が広くなり道路も広くなり、ある種都心の牧歌的風景ともいうべき感じで高層ビルも無いので不思議な都会を感じる綾。赤坂見附の交差点のオーバーパスが無く、メチャクチャ広い五差路がただそこにあるといった感じで皇居がもう近くとはとても思えない風景だった。


 「この道で合ってるはずよね。うーん。」


 スマホでグーグルマップを開くと確かに赤坂見附の交差点にいるし、赤坂プリンスホテルはあるがまだ開業してないようで、工事をしている。位置的に赤坂プリンスホテルを左手に見る道路を走れば皇居に出られるのでその道を行く綾。結局皇居にたどり着くまで高いビルは渋谷のあたりにある程度で他は平屋や、工事しているといった感じだ。三宅坂で皇居の周回道路に出るのでここを左に曲がると右手には皇居、目の前は桜田濠が威厳を以て聳えている。令和の今でも桜田濠の石垣はかなりの大きさで圧倒してくれる。ここまで来ると、目的地ももう目の前。二子玉川から渋谷を抜けるまでは好奇心のワクワクと不安のドキドキが半分であったが、過ぎてしまえばなんと快適な道路事情であった。


 半蔵門を越えて、代官町へ入るには内堀の中に入る。つまり皇居の中である。最初に書いたが令和では北の丸公園に住所名が変わっているが、首都高速の出口に代官町という名残が残っている。つまりこの出口周辺にオートバイの出版社があるわけだ。木造2階建ての古びた建物がありここがその目的地。ようやくたどり着いた綾である。


 「さて、来たのはいいけど陽子さんの紹介で来たとか言えばいいのかなぁ?」


 木造2階建ての古びた建物だが、労働省の分室らしき文字も見えて昭和30年のこのカオスは仕事場というのは令和にはとても考えられないゆるふわさを感じつつ、看板に書いてあるオートバイ雑誌社の門戸を叩いた。


 「はーい、どちらさま?」


 若い男性がそこには複数人いて、女性だ!というような驚きと好奇の目が綾に集中した。


 「陽子さんの紹介で、ここに寄ってほしいと言われてきたんですが、何かの間違いならこのまま帰ります…。」


 と、消極的な返事をした綾だが、編集部員の一人が手招きをしたのでおそるおそるその席に向かうことにした。


 「やぁやぁ、遠路はるばるようこそ!待ってたよ。」


 陽子さんの紹介は既にちゃんと伝わっているようでほっとした綾だが、肝心の何のためにここに来たのか目的がわからないままだった。

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