第119話 国道246号線

  綾は工場長にこの後、皇居にあるオートバイ出版社に立ち寄ってほしいと依頼人に言われたことを話すと、工場長は今千紗を手放すわけにはいかないという事情を話してくれた。千紗とっても平成7年に今すぐ戻るわけにはいかないという事情があるようで、そうは言え依頼人である陽子さんとしては連れ戻して欲しいのだろうという依頼を汲み取ったのだが無理に連れて帰るわけにもいかない。とりあえず、事情としては今連れて帰れる条件が整っていない。ということは理解したので、その旨を陽子さんに伝えることにした。


 なぜ、今手放せない、帰れないかというとこの工場の研究部門において千紗の力をどうも必要としているようだ。ギャルで脳みそアパーな感じなのかと思ったら、千紗は理系女子だったようで、これもいいのかわからないが平成の技術で昭和30年のこの会社の命運を握るプロジェクトの中心人物だったらしい。時代改変ではないか?と思うが技術的というよりもアイディア勝負のようなので、平成の技術とか言ったがそういうものでもないらしい。ご都合的な感じだが、時代改変が起こるような大きな影響力を行使しようとすると、どうも途端にうまく行かないこともこのプロジェクトで分かってきたらしい。


 この小説の本筋から大分離れてしまったどうでもいい話は読者も読み飛ばしたいと思うので、ここまでにして綾がこれから行うことは連れて帰れない理由を陽子さんに伝えること、いずれは戻らないといけないだろうからあと1か月は待って欲しいということだった。それと皇居のオートバイ出版社に行く理由をなんとなくだが、工場長から聞けた。それはYA-1を駆る女性ライダーという特殊なライダーを取材したいからではないか?ということだった。陽子さんから写真を出来るだけ撮ってきてほしいという意図はこの話とは関連性は無さそうだ。尤も、デジカメのデータを昭和30年の人間にどうやって渡せばいいのかもわからないし液晶画面で見せたとしたら上述の都合のいい改変阻止できっとなんらかの理由で見せることが出来ない事態に見舞われることだろう。


 工場を出る時にはもう休憩時間も終わって工員たちは業務に従事しているようで、来た時とは対照的に静かな離脱となった。ここから皇居までは綾にとってもお楽しみの区間で、玉電=東急玉川線と並行して渋谷まで走ることになる。国道246号線である。令和の現在は首都高速3号線が国道の上を走り、東急は地下を走り、国道はアンダーパスとオーバーパスの連続で都心バイパスとして主要道として活躍しているが、この頃は玉電が併用軌道で走り、高速道路は存在しない。そうは言え、二子玉川園までの主要道として既に活躍している時代で、車通りも多い。砧から二子玉川園に戻って、国道を走るが、瀬田の交差点で玉電が合流したところで広かった道路はあっという間に狭い道路になりそこを玉電と一緒に走ることになり、想像していたものとはだいぶ違っていた。瀬田から駒沢大学までは現在の国道246号線ではなく、東急田園都市線の上を走る道路が国道だったのだ。桜新町がサザエさんの聖地であるようにこのあたりはこの時代においては新興住宅地となってて、戦後すぐの昭和だと一般的な東京の家庭が住む場所そのものだった。


「あれー?思ったのと違うー」


 オシャレさのかけらもない国道246号線の姿だった。それでも国道はまだ広い方で人が歩ければいいくらいの路地や玉川線も専用軌道でも人が歩いているといったような、そんな風景がどこまでも広がっているようだった。都心に近くなれば近くなるほどに交通量も厳しくなってくる中で併用軌道で玉電が後ろから迫ってくる。という感じのオートバイだからこそまだ運転できそうな環境だが車だと令和のドライバーではたまらなく車を捨てて逃げたくなるようなそんな道路状況である。三軒茶屋まで来ると、一層その混み具合は厳しくなってくるが、街道沿いには店舗が並んでいるが歩道がないといった感じで歩くのもかなりの肝を冷やす感じだし、出歩くこと自体がまさに冒険といった有様である。国道1号線や第一京浜である国道15号線が如何に主要道で早い段階で改良が進められていたのが分かるのが国道246号線の惨状であった。

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