第118話 キーレスエントリーキー
工場長と千紗と綾しかいない部屋。平成7年から来たのにキーレスエントリのキーを見て見覚えがある顔をしている千紗に対して綾は疑問を抱いた。この時代だとオートバイでキーレスエントリーのオートバイ、ましてホンダのキーレスキーでピンとくる方がおかしいのだ。すると、千紗はこう経緯を話した。
平成7年のオートバイ屋「ようこの」に来た千紗はその時はTZR250R(3XV)に乗っていたらしい。オートバイブームが去ったとはいえ、まだまだオートバイ人口は多く、日本向けモデルも普通に作られていた時代。とはいえ、確実に斜陽の時代を予感させ始めてる頃で、この翌年にホンダNSRが終売する時代だ。千紗はぼんやりと数十年後のオートバイを取り巻く環境に想像を巡らせていたところ、陽子さんがスーパーカブは永遠に生きるのよ。これがそのキー。と、キーレスエントリーのキーを見せたので覚えているようだった。だから、このキーに見覚えがあったわけで、それが本当にスーパーカブC125のキーレスエントリーキーであるということは千紗は理解はしてなかったようだ。では、昭和30年の東京23区の最も端の工場で世話になってるのかという経緯も話してくれた。
それは、TZRの修理依頼をしながら、ヤマハ談義をしてて始祖であるYA-1を陽子さんが千紗に見せてちょっと乗ってみる。ということで代車試乗したところから始まるが、あとはなんとなく分かった。借りているうちに昭和30年に迷い込んでしまったようだがこの工場で世話になるのは桜木町の海運会社の沢田が江戸川沿いで呆然としている千紗を見つけて、事情は分からないにしても身寄りがないということを理解して世話していた。ということらしい。沢田が江戸川でなぜ千紗を見つけたかというところは非常に気になるが、それは陽子さんが沢田を使って千紗を捜索した結果であろうことはなんとなく綾にも想像は付いた。工場長は沢田には大きく世話になっているのである程度の事情を既に聴いた上で世話をして工場長権限で雇用したようだ。つまり、陽子さんは自らが過去に戻ることは出来ないか、しないか、いずれにしても行かずに千紗を見つけ、そして自分に回収してもらいたかったのだろう。千紗の元の時代は平成7年だが、これは一度綾が自宅に連れて帰って平成7年のオートバイでまた旅をすれば戻ることが可能なので、これにて本件は解決!という見積もりなんだろうと考えた。
ところで、千紗は自分とそこそこ年齢が変わらない感じだから、令和5年では48歳くらい?ということだろうか?前回の山梨の時の沙織より少し年下くらいだろう。いずれにしてもオートバイ全盛期の世代は基本的にそういう年齢層にみななっているということだ。綾の時代、つまり令和はパンデミックでオートバイ需要が一時的に伸びたこともあったが、それまで平成も10年を過ぎると一気に下火になって冬のオートバイ時代が長く続いた。オートバイを取り巻く環境自体がそもそもいいわけでもないのに乗ってる人の情熱だけで続いたバブルは弾け、そして令和の今もまたオートバイ業界は岐路にあると思う。
「さて、どうしましょうか?」
綾は巡らせていた考えを一度断ち切って、今後の話を二人にすることにした。
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