第108話 未来が明るかった時代
帰宅した綾は、YA-1がデビューした時代を今一度ネットで検索した。YA-1については陽子さんにレクチャーを受けて自宅まで走ってこられたし、混合ガソリンの作り方も大体分かったわけだが、昭和30年という時代背景なると、前回の昭和37年とは道路状況は全く違っており、昭和30年は高度経済成長時代の幕開け時代で、戦前をまだまだ大きく引きずってる時代だ。詰まるところ、カオスな時代であることは調べれば調べるほどわかってきた。
ところで、YA-1はオートバイメーカーが群雄割拠している時代に日本楽器製造が初めてであり最後に出したオートバイで、日本楽器製造からヤマハ発動機が発足してわずか10日でに富士登山レースで優勝、その後の浅間火山レースで1~4位まで独占すると言った、今では信じられない産声を上げたオートバイで、その後の昭和30年代にオートバイメーカーの群雄割拠が終焉して、生き残った国産4大オートバイメーカーとして今も君臨しているのは頷ける。帰路に気づいたことだが、信号待ちで歩道からしきりにYA-1を見ている老人がいたのはそれだけ当時のインパクトは大きく、また発売から68年が経過したオートバイが公道でしかもうら若き女性が乗ってるだけで仰天するのも調べてみて我ながら納得する。
昭和30年という時代がどういう時代かというと、戦後10年しか経過していないので、本土においても在日米軍との軋轢が生じた砂川闘争(東京都北多摩郡砂川町、現在は立川市で在日米軍立川飛行場(立川基地=通称フィンカム基地)の拡張に反対した住民運動で昭和52年まで米軍基地であった。現在は自衛隊立川基地と国営昭和記念公園になっている)など、戦争の爪痕も大きい時代。道路状況においては高速道路は全く存在しない、バイパスも基本的には存在しなく戦前からの道路状況とさして変わらないということだろう。綾にとっては昭和37年以上に未知の世界で期待と不安が交錯しているがどちらかというと今回は不安がちょっと大きいかもしれない。ここに裕子を後ろに乗せて行くなんて考えたら無理が生じて何か大事が起きてそれこそ昭和30年に置き去りになるかもしれないので当然のように一人で行くことにしたし、期待に関してだけ考えることにした。高度経済成長によって歴史的価値のあるものや、趣きがあり失われるものが惜しいものでさえも、スクラップ&ビルドによって跡形もなく変えられてしまった時代なので、昭和37年に無く昭和30年に存在するものも当然ながら多く、綾が期待しているものは京浜急行の併用軌道や多摩スピードウェイや東急の併用軌道を見る事だったし、最終目的地の皇居に出版社があることをその目で見られることだろう。
逸る気持ちと不安な気持ちが交錯するときは大概眠りに落ちにくいもので、昭和30年のことは一旦忘れて違うことを考えようと考えているうちに、今まで過去に遡った時代を思い返していた。昭和37年は東京オリンピックにより、東京大改造時代で次々と新しい道路や公共交通機関の改廃が進む時代でありその改造は明るい未来を展望した人々で過去を捨て去るのも容易な時代であり、最初に飛ばされた昭和63年は高度経済成長時代を終え、オイルショックを経て、プラザ合意からの円高、バブル経済へ突き進む時代で、これまた過去を振り返る時代ではなく目先のマネーゲームに躍起になったり、土地の価値を上げるためなら何でもするしそれまでの未来が明るい時代はものが少なかったがこの時代は飽食の時代であった。いずれにしても今まで綾が辿った過去はよく考えると未来は明るい日本で活気があふれている時代だったことに気がついた。などと考えてるうちに気持ちがより高揚し始めて眠れそうにない気分になった。
ふと我に返ると、裕子はまだ帰宅していない。おそらくオールドゲームセンターで昭和を満喫して、飲み屋で康夫とレトロゲーム談義に夢中になってると思うので、帰宅しても午前様だろう。綾は一度帰宅はしたがもう一度令和の空気をYA-1に吸わせてやろう。と秋の空気が感じられるようになった夜を走ることにした。
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