第107話 2ストロークと混合ガソリン

 YA-1を借りることになった綾、前回CB72を借りているので手信号による補器類の代替アクションは理解しているので、その点に関しては十分な知識はあったが、2ストローク、ましてはオートルーブ(分離給油)ではない、混合ガソリンで走るということに関しては全くの未知で、陽子さんに混合ガソリンの作り方を教わった。草刈り機などの2ストロークエンジンやレーサーオートバイのようにオートルーブ機構をわざと外したものでないとまず扱うことは無い上に、現在においては内燃機から電動に置き換わり始めてる時代に2ストロークエンジン自体に乗る機会はほとんどないといってもいい時代。ところで、分離給油と混合給油の違いというのは、分離給油はガソリンをガソリンタンクに給油するだけで走ることができるが、別体のオイルタンクに2ストロークオイルを給油して、オイルポンプによって燃焼前にガソリンと混合される仕組みになっており、このオイルポンプの調整でオイル吐出量を調整する。一方、混合給油はガソリンタンクにガソリンを入れる時点でオイルとミックスしたガソリンを給油しなければならない。オイルタンク、オイルポンプが不要というメリットもあるが、給油時に毎回混合ガソリンを作らなければならないし、混合比率を調整するのは人間なので面倒ではある。この時代はオートルーブ機構自体が存在しないので、混合なだけなのだが、今の2ストロークエンジンは40:1くらいでも焼き付かないし草刈り機においては50:1くらいだが、やはりこの時代の場合、推奨比率は20:1なので現在の感覚で混合ガソリンを作ったら下手したら焼き付いてしまうわけだ。ちなみにこの比率は20:1の場合はわかりやすく言うと、20Lのガソリンに対して1Lのオイルということになるので、10L程度の給油に500ccのオイルを混ぜなければならないので結構なオイル消費量になる。80年代の一般的なレーサーレプリカオートバイのオイル消費量は1000kmで1L程度なので、仮に15km/Lの燃費だとすると、ガソリン67Lでオイル1Lなので67:1くらいと考えると、相当にオイル燃費が悪いと考えるといいだろう。


 そんな簡単ではあるが勘違いしやすい混合比の説明と実演を陽子さんがしてくれた。行動中に給油が必要な時計量するためのメスシリンダー、ガソリンタンクにオイルを注いで攪拌できるよ醤油ちゅるちゅる、正式名称は石油燃焼器具用注油ポンプを渡された。現代においても変わった人は混合仕様にしてガソリンタンクにガソリンを入れてから同じようなことをしている人もいるらしいが定かではないが。


 エンジンを始動して煙がもくもくと出ると焦ってしまいがちだが、冷間時は往々にして白煙が出やすいが、このYA-1など混合比が濃い設定のエンジンは効率の悪さも相まって熱が入ってもそれなりに煙がもうもうと出る。令和の空気をキャブで吸うどころの話ではなく、令和の空気を思いっきり汚している気分になる。ちなみにNOxの排出量に関しては2ストロークの方が少ない。というのが原理的な特徴であるが、一方でCOやHCが多いので有害物質としては明らかに2ストロークの方がやはり悪いのでそこに関しては目を瞑って走る胆力が必要そうだ。


 などと、こうした全然違うところで気を揉みながら綾は家まで走って帰ってきた。帰宅したらきれいだったYA-1は全体的にオイルがところどころ付いてて、早速汚れていた。ちなみに綾の服もオイルのシミがちょっと付いていた。これはいざ走るときの服装を新たに手に入れておかなければならないな。とも思った。

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