第105話 YA-1とAUDI RS2 AVANTと真夏夜のコンビニ
陽子さんの言ったYA-1とはヤマハが作った最初のオートバイだ。発売時は日本楽器製造で、ヤマハ発動機ではない。そんな些細なことはどうでもいいとして、1955年、つまり昭和30年。これに乗ったら昭和30年の日本に行けると思うと、不安と期待が織り交ざった感覚に囚われる綾だった。裕子は興味無さそうにしている。元々裕子はゲームセンターが大好きで速さが好きなので、当然この時代のオートバイには興味はないし、何なら昭和58年にまた戻りたいといわゆるレーサーレプリカ全盛期をこよなく愛しているところもあるので、それなら昭和63年以降、つまり平成初期の世界を見てみたいとほざいていた。
ほろ酔い加減で対応していたので適当な返事で「はーい、行けば何かあるんでしょう?いきますよー」と綾は返事していた。陽子はビールをたくさんレジ袋いっぱいに買ってきてたのはこのためだったのかもしれない。陽子さんは車で来ていたのでお酒を全く飲んでいなかった。ノンアルを飲んでいたのだ。車に乗った3人は酔い覚ましに湾岸方面をドライブしていた。陽子さんの車も実にマニアックで新しそうで古そうで、見たこともない感じのデザインでAUDI RS2 AVANTというワゴン車だ。何やらアウディとポルシェが手を組んで作ったスポーツワゴンらしいが、綾も裕子も車のことは全く分からないが左ハンドルなので外車だな。くらいの認識でしかなかった。京葉道路に出て、湾岸道路に入ってゲートブリッジ手前のコンビニで酔い覚ましのアイスコーヒーを飲みながら本題の話になった。コンビニのアイスコーヒーは好き嫌いが結構あって、綾はセブンイレブンのコーヒーがお気に入りだったが、ファミリーマートのアイスコーヒーもなかなかだなと思ったが、味音痴なので結局はインスタントコーヒーよりはおいしい。くらいの感覚だろう。イートインコーナーがあるので酔い覚ましにはいい場所で、端的にYA-1で桜木町のとある海運商社に行って、その後砧のとある製薬工場の従業員に渡してもらいたいものがあるらしい。これだけを言われるとちょっとした企業スパイか企業秘密の運び屋みたいな話である。
ところで、YA-1については2ストロークエンジンで125ccバイク(正確には123ccなのだが)だが、ガソリンを入れるだけではダメでオイルを入れて混合にしないとエンジンが焼き付いてしまうということで、後日混合ガソリンの作り方を教えてくれるらしい。昭和37年から7年遡るだけでなんだかいろいろオートバイは一気に古臭くなるのかな?とぼんやりした気持ちで聞いていたが今すぐ乗るわけではないのではいはいと適当に答えていた。横を見るとすっかり酔いつぶれている裕子が寝ていた。花火大会の後の真夏の夜の空気はドロッとしていながらも潮の匂いがきつくなって、高校時代を港湾近くの高校で過ごした綾にとってはどこか青春時代を懐かしく思う風が吹くような気持ちでまんざらでもなかったが、実際に裕子を抱えてAUDI RS2 AVANTの後部座席に裕子を突っ込むころにはエアコンが効いた部屋に戻りたいとも思っていた。
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