第102話 浴衣

 市川江戸川花火大会が開催される週末になった。陽子から電話が来て、夕方5時に篠崎駅に来て。という話になったので、綾は浴衣に着替えた。黄色で金魚模様のかわいい浴衣だ。見た目が若いのに三つ編みに幼めの浴衣を着るから中学生に見えるかもしれない。裕子は綾が持っていた青ベースで花模様の入った爽やかな柄の浴衣を借りることにして、都営新宿線に乗って篠崎に向かった。


 「そうそう、今日は驚く知り合いを呼んだから期待しててね!」


 と、意味深な電話と共に少し遅れるという連絡が陽子から入った。ちなみに市川江戸川花火大会とは正確には江戸川区花火大会と市川市民納涼花火大会が同時開催されるので総称として呼んでいるだけで正式名は左の通りで開始時間は19時15分からなので開始時間から2時間以上前に集まるので少々の遅れは問題ないのだが、駅を降りたらすごい人混みでこれで待ち合わせられるのか?という疑問をよそに、裕子は早速屋台を見てはしゃいでいる。どこの花火大会もそうだが基本的には地元及び近隣地区の人が集まるものなので地域によってカラーも違ってくる。このあたりの地域は正直言ってヤンキーっぽいのもそれなりに多いのでナンパされることも十分あるので、綾はわざと幼めの格好をしていたらしい。裕子が着ている浴衣は綾が前の年に着てヘアスタイルもロングにしていたらナンパされたので今年はそうならないようにしていたのだが、幼いほうが好みの男性もいるようでやはりナンパされたが、声を掛けてきたグループの一人がさすがにその年の女の子をナンパはまずいだろう。と諭した感じで正確には未遂で終わったようだ。


 一方、裕子は新潟で5年を実年齢よりも年を取っていたのも含めて妙齢の出立であったので、ナンパするような年頃からすると年上のお姉さんに見えたようで、美人だなぁと、遠目から視線を向けてるというのを綾は感じ取っていたので、今回の作戦はうまいこと行ったな。とほくそ笑んでいた。


 「綾ちゃん、グーグルマップで位置共有送るからそこまで二人で来てね。」


 陽子さんは遅れると言いながら実は場所取りをしていたようだ。相変わらず、手回しがいい大人の女性である。位置情報を見るともう河川敷の方にいた。綾と裕子はまだ開始時間に余裕もあるので祭の雰囲気を楽しみながら多くの人の流れに乗りながら、河川敷に向かう。真夏は夏至から1か月以上経過しているので陽が落ちるのも早くなってきており大分日が傾いてきて幾分か涼しくなってきていた。堤防に上がった時に一迅の風が吹いてさーっと蒸した風を洗い流した。夏はまだまだだが、秋の空気を感じられる風だった。見渡すと河川敷を埋め尽くしたブルーシートの上に人が集まりそれぞれの宴会をしていた。昭和37年に飛んだときに東京で見たあの活気を少し思い出した。祭の良いところは人の活気だ。河川敷に降りて陽子とようやく落ち合うことができた。


 「ものすごい人出ですね!久しぶりの感覚です。」


 綾と裕子は陽子に会えてようやく安堵したところもあった。人混みがすごすぎて永久に会えないのでは?と思ってしまったからだ。陽子に連れられて向かった先はいわゆる桟敷席。有料席の中でも特別な席で、さらに特別感があるような場所に連れてこられてしまった。陽子さんの謎がさらに深まったがきっとあの店の常連に偉い人がいるんじゃないか?と謎ではあるが有りうる話ではある。陽子が座った席には他に女性が1人、男性が2名いた。陽子が紹介した一人はこの席を取ってくれた地元の名士らしくそれなりに年を召した老人で陽子が信頼を大きく寄せてる老人らしい。

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