第98話 おいらん淵

  変わったオートバイに乗ってる人は大体変な人が多いが、それは見てくれというよりも他者と違うことに価値観を感じているというレベルのものなので、会話をしない限りはそれなりに普通の人たちだったが、オートバイ乗りと一括り出来ない理由の代表例であろう。ハーレー・ダビッドソンが好きな人と、レーサーレプリカが好きな人は往々にして人生の邂逅が有っても一瞬の邂逅のみでそれ以上はいけない。という本能的なものをお互い感じているからこそ、一瞬で留まっている。ともいえる。こうした不文律のようなものを時々犯してしまう人がごくたまにいるので時々炎上したりトラブルが起きるわけだ。


 綾と裕子は珍しいオートバイではあるが、声を掛けるのは止した方がいいと本能が告げていたのだが、オーナーが近寄ってきたので珍しい車種ですよね。とほほ笑んで、相手が語り始める前にそそくさとNSRとVFRに向かうのだが、ここで相手も乗っているオートバイを見て、ただのミーハーで今どきの売れ線オートバイに乗っているので価値観の違いを察知してこれ以上は話しかけてこなかった。


 こういった、ライダー独特の気質みたいなものは昭和も令和も思ったほど変わりはないのかもしれない、ただし、令和の今はワールドワイドレベルで承認欲求を満たせる場が存在してしまったので、承認欲求を満たす事だけが目的にしかなかったのが見透かされた炎上事件も多々あるが、昭和だとせいぜい仲間内にマウンティングするのが関の山なので炎上なんかは無い本当にやりたいことをただやっている、それが出来る、やりたい放題の時代なのかもしれない。


 柳沢峠でマンウォッチングをすると綾や裕子の年齢層がメチャクチャ多かった。年代で言うと20代である。この世代も令和のでは50代後半なのでライダーの層というのは乗り続けているライダーの年齢がそのままスライドしているだけなんじゃないか?という事実に気づいてしまうのだが、いわゆるスポットと比べるとツーリングだと年齢層は若干高めなのでみんな定年になってるのかなぁとぼんやりと眺めていたらもう30分も休憩してしまっていた。


 国道411号線の柳沢峠から奥多摩方面は現道と比較して大きく変わっている部分はあれどもこちらは概ね現道が残っている。大きく変わってしまったのは花魁淵のあたりだ。令和の今はトンネルで花魁淵は素通りしてしまうし直線的になった。現在はつづら折れのあと一ノ瀬高橋トンネルで通過するがここをさらにつづら折れで下り、柳沢川に沿って直角に橋を渡ったって一ノ瀬川と合流するあたりが花魁淵だが、現在は旧道の橋は撤去されていて舗装も剝がされているようで、片洞門は生き残っているようだが、ここを今走っている。このコーナーがものすごく事故が多いので花魁淵が近いこともあって、心霊スポットのような扱いをされていたが線形的に明らかに事故りやすいので道路にそもそも問題があったと言えよう。綾はこうした令和では走れない道路に興奮を覚えるので花魁淵の鎮魂碑があるところで一度止まってグーグルマップで現在地を見ては感慨深い顔をしていた。裕子にしてみるとよくわからない趣味ではあるが、裕子にとってはこうした旧道の狭くくねくねした道路は新鮮でわくわくする道路らしい。彼女たちのちぐはぐな趣味趣向はいい感じで噛み合ってるのかもしれない。


 結局、令和には5つあるバイパストンネルは昭和には全くなく、思った以上に進まない。丹波山村に着いたが、昭和の丹波山村は本当に寒村という感じなだけで道の駅も無ければ何もない。ただ集落があるのみなので休憩する場所は無かった。ちなみに隣の小菅村の道の駅も最近のオープンなのでこの辺りは休むなら自動販売機の広場くらいしかなかったのでまさに通過するだけの寒村だが今はすっかり道の駅や温泉もあり、だいぶ変わったものである。そんなことは綾も裕子も気にすることもなく、国道411号線を東進していくと、やがて東京都に入った。深山橋を右折すると深山荘なる休憩所がようやく現れる。時間はまだ午前中だが、昼食を摂るならここしかないのを綾は知っていたので裕子に合図をして駐車場にオートバイを止めて、深山荘に入ることにした。

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