第97話 柳沢峠と青梅街道
いよいよ核心の一つの国道411号線の柳沢峠に至る峠道。令和の今はバイパスという名前にはなっていないが、旧道がわずかに遺構として残されてるが、ほとんど新道でバイパス化されている。イメージで言うと裂石温泉を抜けたあたりのヘアピンまでのあの道路が延々と峠まで続く。という感じ。今の道路だとコーナーが18か所、うちループコーナーが2つもあるので高規格・高速化してもこれだけのコーナーが存在しているのは標高差600m弱を直線距離でわずか4kmで登らなければならないからだ。なお、旧道の国道411号線は40か所以上のコーナーを抜けないと峠には着けないのだからかなりの難所といってもいいだろう。
「道路は狭いけど、路面もそこまで荒れてないし見通しも悪くないわね!」
先行している裕子は気持ちが盛り上がってきたようだ。朝早い時間だが、それでもオートバイとすでに何弾もすれ違っている。いわゆるスポットではなく、スポーツ系ツーリングライダーのメッカと行ったところだろう。山深い道路だが、交通量は多い。青梅街道であり、甲州裏街道とも呼ばれ江戸時代からもすでに交通のサブ道路として活躍はしていたが、初期のルートは大菩薩峠を通り小菅村を経由したルートであって、柳沢峠ではないのだが後期は柳沢峠ルートに切り替わったようなので現道のルートも非常に歴史ある道路である。
一方、綾はのんびりと走って景色を見渡しながら走る。時折、止まってはグーグルマップで令和の現在地と比較しながら登っていく。歴史マニアとしては一度試したかったらしい。実際走ってると切れてしまっている旧道の遺構の上を走ってると実感するとノスタルジックに浸れるらしい。やがて、高度も上がっていくと、現在の高規格道路の開けた景色の良さとは違って、いかにも峠道らしいコーナーがよりつづら折れになったあたりで空に向かって行くような錯覚を感じる景色に出会った。今でいうと、柳沢峠の最後のループ付近でこのあたりが旧道のハイライトだったようだ。勿論今もループ直下に富士山の見える展望台として、旧道を潰して展望台にしているので展望台から切れた旧道を見ることが出来る。
「わぁ、こういう道路って本当に減ったわよね。峠らしい道路であたしは好き。」
登りきると、それまでくねくねだった道路から急に緩やかな道路が現われ程なく柳沢峠に到着する。そこには満足したような顔をした裕子がNSRの横で立って待っていたが、狭い峠の茶屋の駐車場にはそれなりの数のオートバイが止まっており、各々オートバイ談義や唯一見通しがいい、茶屋の駐車場の南端で富士山を眺めていたりしている。
「おまたせー。裕子さん、満足そうね。」
「うん、こういう道は最近はあまりないものね。マージンをしっかり残しながら流しながら走るってのがあたしは好き。」
綾はそのあたりはよくわからないのでとりあえずにっこりと笑って話をすり替えて、富士山が見えるほうに指を差してこういった。
「これで富士山は見納めね。いつ見ても形が変わらないのは山だけね。」
これは令和から昭和に来た二人には今まで見てきた景色はほとんどが変わってしまったが戻っても変わらない安心感のようなものだろう。
柳沢峠の茶屋で休憩しながらも止まってるオートバイに目が奪われる。そこには当時もあまり見ることが無かった、VFR400Z、FZ400N、FX400Rと当時のフルカウルオートバイの公式のノンカウルバージョンが並んでいた。さすがに当時でも変態の集まりとしか言いようがない。いつの時代もメインストリームを避けて変わったオートバイを好む人はいるが、この時代でもいた。とちょっと二人はほくそ笑みつつも敬意を持ちながらまじまじとこれらのオートバイを眺めてしまっていた。
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