第96話 塩山市(現在は甲州市)

 当初の予定のスポット巡りについては緑山峠にあとは立ち寄りたいな。と思う綾だったが、走ってみて時間に余裕があるか無いかで決めようと心の中で思った。裕子に言ってしまうと、決定事項になりそうだから。明日も走るのでほろ酔いに留めて宿に戻ることにした。


 翌日の朝も鍋に火が付き始めたのか、朝からじりじりと沸騰し始めるので甲府盆地から脱出を図りたいのだが、泊まった宿は昭和町で塩山まではそれなりにある。地図を見て国道20号バイパスは最後まで完成していたので勝沼町から県道を使って塩山に行くことにした。今だと西関東道路や、フルーツラインなど経由して盆地の縁沿いを走って市街地を避けて柳沢峠に向かうことができるが、この当時は市街地を走るほかなく、国道20号線以外のバイパスもほとんど完成していない。尤も、国道411号線の線形改良は平成になってから本格化したので、それこそが綾の楽しみなのだが、どこに移動するにしても令和のようにスムーズに行かないのでグーグルマップのナビでの予測時間は全く役立たずである。


 「今日も暑いねー!早く甲府から脱出したい!」


 国道20号バイパスを走ってる時はまだしも、県道は我慢の時間だが幸いにもまだ朝早いので渋滞も無ければさほど車もいないのが救いだが、塩山へマイカーで向かうにはどこからも市街地または山道を通らないとたどり着かないので、塩山は特急も停車する駅なので鉄道で行くのが最も最良な交通手段ともいえる。だからなのか、街中は昭和そのもので止まったような景色の市街地で趣がある。県道に降格されているが、塩山駅の手前の国道411号線のガードをくぐると、「歓 塩山温泉郷 迎」という看板のアーチが待っている。そして、奥多摩へのいよいよ奥多摩の文字が見えてきた。バイパスは時間短縮、線形もよく安全だが旧道を走ってると旅情をくすぐる構築物がそこかしこに建っており、昭和時代全盛期の遺構が現役として生きている。昭和のモータリゼーション革命、すなわち昭和30年代後半は旅行ブームだったのでそれを誘致するためのあれこれ。というものがまだ生き残っていたり、遺構として残ってるのが昭和末期なのだが、バイパスを使ってしまうと時間短縮との引き換えでその旅情に浸ることができないのが残念だが、旧国道を走れば令和の今でもその現役や遺構が残ってることも地方では多いのでお勧めしたい。


 塩山からはまっすぐ、そしてものすごい急勾配で柳沢峠に向かう。このままこの直線で標高400mちょっとの塩山駅から標高1472mの柳沢峠の標高1000mの差を上げたら面白いだろなぁと妄想していたが、すでに直線としてはかなり無理がある感じの勾配なので、当然ながら住宅が無くなり始めたあたりでヘアピンカーブに差し掛かった。裂石温泉が限界集落らしく、それ以降は集落も無く本格的に山岳道路になり、昭和の国道411号線の本領を発揮し始める。それとともに裕子が綾を追い抜き、最初の1コーナー目を抜けた時にはもう姿がいなかった。裕子はこういう道路を走るのが好きで尚且つ道路しか見てないのだろう。どうせ、柳沢峠で待ってるだろうから綾はゆっくり走ることにした。こういう時は4ストロークのオートバイはいいものであるが、真夏の街中を走るには4ストローク4気筒はエンジンが熱すぎて不向きなのだが。


 

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