再び昭和63年へ
第78話 梅雨明け
綾は大学に通い、出版社でアルバイトを淡々とこなす日々を送り、裕子は家事全般を担当して余った時間でゲームセンターに入り浸っていた梅雨の時期。お互いが共にする時間は夜遅い時間で晩酌をしては梅雨が明けたらどこに行くかを話したり、お互いの今日の出来事を話したりしたが終わればパーソナルスペースは確保されてるので一日中ずっと一緒にいるわけではないのでこういうシェアハウス的な距離感はお互いのためにも実にいいと思う。前に住んでいたあの四畳半のアパートで同居していたらさすがにいろいろ問題が起きていたことであろう。さらに趣味が大きく違ってるところもあるならばなおさらだろう。勿論趣味が全く同じでも一日中一緒ならどこかで疲弊してしまうかもしれない。それがオートバイ乗りの性なのかもしれない。それも含めて陽子さんは用意してくれていたんだと思う。
そんなこんなで、梅雨が明けた。
二人は当初はその辺の峠スポットを訪れてみようとか言っていたが、スポットが喧噪な状況になるのは大体夜で、ツーリングという場所・時間としては全く適切ではないし、トラブルに巻き込まれるのも問題があるので、普通にロングツーリングをすることにした。令和では行けないが昭和だと行ける場所。そんな場所を調べていたのだ。読者のみんなに問うとしたら昭和ならオートバイで行けて令和だといけない場所というとどこを想像するだろう。
そうこうしているうちにツーリング当日の朝になった。この日のためにいろいろ下調べ、準備をしていたのだ。二人は玄関を開けると多分昭和の朝にNSRとVFRに跨り出発する。景色を見渡すと確かにまた昭和に戻ってる感じだ。料金所でETCゲートが無いのを見て昭和を実感する。ここからは綾は何度も走った昭和63年なので迷うことなく中央自動車道に足を進めて、石川PAに向けて走る。ところで、都内を通る場合、止まりやすいパーキングエリア、サービスエリアというのがあって、中央道なら石川PA、東名なら海老名SA、東北道なら蓮田SAというように100km走らないで一度止まるのは一息ついて安全を確かめる。という意味合いもあるし、自分の調子を見るにはいい距離なんだと思う。綾は石川PAに着くなり、まっさきにグーテンバーガーの自販機を目指してチープなハンバーガーにかぶりつく。どうやらこのハンバーガーが気に入っていたようだ。裕子は普通に出店のアメリカンドッグを食べている。まだ朝早いのでちょっと暑いくらいだが、日差しはカンカンに照っていて、早い時間に都心を抜けたことを改めて正解だったということと、ここから先のロングクルージングを楽しみにするのだった。
オートバイを駐車していたスペースに戻ると、一面オートバイだらけで令和ではごくたまに見る景色よりはるかに多いオートバイが駐輪されてて昭和のオートバイブームの熱気を朝から見せられるのだった。
「いやー、オートバイ好きならこの時代に生まれたかったね。」
裕子が言ったが、綾は冷静に令和の方がいいかな?と思った。高速道路は思った以上に伸びてないし、車もオートバイもマナーがいいかというと微妙、国道もバイパスが結構出来てないのでどこに行くにも令和とは比べ物にならないくらい時間がかかるし、オートバイは足の一つという要素が結構高い人間からすれば、覗いてみたい世界のレベルである。
30分ほど休憩してしまったが次は少しでも足を延ばそうということで、諏訪湖SAまで一気に行こうということになった。インカムを持っているので万が一何かあってもすぐわかるがこの時代は携帯電話も無ければインカムもないので待ち合わせを事前に取り決めてないとはぐれた時点でジ・エンドというのも綾が令和の方がいいな。と思った理由の一つでもある。
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